ジェイド・カーティスにとってクリスマスは騒がしく、煩わしいものであり、年末の忙しい時期にそんなことのために時間を割くのは迷惑以外のなにものでもなかった。そうはいっても幼い頃は妹や幼馴染が騒ぐのに巻き込まれたし、現在も皇帝の馬鹿騒ぎの歯止め役を押し付けられている。そういうわけでジェイドにとってクリスマスというものは好ましいものではなかったが、それなりに身近なものであった。だからあと数日でクリスマスだということも当然覚えていた。


クリスマスなんて大嫌い?


(そういえば、ルークへのプレゼントはどうすべきなのでしょうね)
 目の前で揺れる朱いひよこをみながら思う。死霊使いといえども当然子供の頃があり、クリスマスの朝にはプレゼントが枕元にあった。サンタクロースの存在は早々に信じてはいなかったが、両親とまだ信じている妹への気遣いとしてそれを口にはせず大人しく受け取っていた。もっとも欲しがる内容は譜術の本や辞典などで到底子供らしくはなかったのだが。
 ルークは外見上は17歳でも中身は7歳だ。しかもあの性格からして、まだサンタを信じている可能性が大いにある。ガイもルークに甘いから教えてはいないだろう。
 サンタクロースを信じているのなら、今年もプレゼントを楽しみにしているかもしれない。しかし今は旅の最中であり、それまでは両親に貰っていたであろうプレゼントも受け取ることが出来ない。ならば周りの大人である自分が与えるべきではないのか。7歳は子供だ。子供ならばプレゼントを与えなくてはならない。
 そう結論付けるとジェイドはルークのほうへ歩き出した。自分は7歳のときはすでに白い髭と赤い服の聖人など信じていなかったことも、ジェイドが与えなくてもおそらく金髪の元使用人が嬉々として与えるであろうことも無視をしてジェイドは自分がプレゼントを用意しなくてはいけないのだと思い込んだ。すでにルークがサンタクロースを信じていないという考えは頭にない。
 しかし、ここでジェイドはある問題に気付いた。ルークの欲しいものが分からないのだ。普通の7歳児なら、おもちゃでも贈ればいいだろう。17歳ならそもそも贈る必要がない。ジェイド・カーティスには子供が欲しがるものなど分からなかったし、ルークの欲しがるものはなおさら分からなかった。ガイに尋ねれば分かるだろうがそれはそれで不愉快だ。


「ルーク、もうすぐクリスマスですね」
 数メートル先にいたルークにあっさりと追いつき、ジェイドは何気なさを装ってルークから欲しいものを聞きだすことにした。
「あ?そういえばそうだな」
 しかしルークの反応はジェイドの予想と違っていた。予想ではルークはクリスマスを楽しみにしていると思っていたのだが、返ってきた言葉は淡白なものだった。はっきりいえば興味がなさそうだった。
「えっと、ルークはサンタクロースを信じていますか」
 本当はいきなりサンタに何を貰うつもりか聞くつもりだったが、先ほどの態度からして信じてない可能性も出てきた。この質問にも子ども扱いすんなと怒るかもしれない。
「はぁ?」
 あぁ、やっぱりいくらなんでも信じていなかったか。落胆を覚えながら、子ども扱いされたことを怒るであろうルークをなだめる方法を考えているとまたしても予想外の言葉が返ってきた。
「サンタクロースってなんだ?」
 本気で予想外だった。ジェイドにとってサンタクロースは常識であり知らないなんて思いもよらなかった。屋敷に閉じ込められていたとはいえ、本当に知らないのか。
「サンタクロース。サンタですよ。赤い服で髭の。本当に知らないんですか」
「悪かったな!世間知らずで!その人そんなに有名な人なのか?」
 本当に知らないようだ。
思わず言葉を失って黙っていたが、忍び笑いが聞こえて振り向く。するといつの間にやら近くにいたガイが生暖かい目で見ていた。もっともルークしか眼中になかったジェイドが気付かなかっただけで実はガイは初めから居たのだが。
「・・・なにか言いたいことがあるのですか。ガイ」
「い、ぷ、いーや、なんでもないさ。ただジェイドにも知らないことがあるんだと思ってな」
「なにがですか」
 必死に笑いをこらえている様子にイライラするが、先を促す。
「いや、でも案外知らないものかもな。実はな、キムラスカにサンタクロースの習慣はないんだよ。キムラスカのクリスマスはマルクトと違ってイベントというより儀式の色が強いから」
 俺もマルクト人ってばれるとまずいから教えなかったしなーと笑うガイを槍で一突きにしたいのを子供の前だと、ジェイドは必死に押さえた。復讐だのやってないで教えておけと思いながら、後でガイを吊るすことを決めた。
「へぇ〜、マルクトのクリスマスはキムラスカのとは違うんだ。そっちのは面白いのか?」
 小首をかしげる少年に素直にマルクトのクリスマスについて教えればよかったのだ。しかしそこでひねくれた答えを返してしまうのがジェイドだった。
「私はキムラスカのクリスマスを経験したことがないからわかりませんが、まぁ普通だと思いますよ。陛下などは楽しみにしているようですが、私は興味ありませんね」
「ふうん?じゃあ今年は別にやらなくてもいいよな。クリスマス」
 それどころじゃないし。そう言ってあっさりとルークはクリスマスをしないことを決めてしまった。


 そのことにいっそ目の前が白くなるほどがっかりしている自分が、どれほどクリスマスを楽しみにしていたのかなどジェイド・カーティスは気付かないのだ。