ケテルブルクのクリスマスは美しい。年中雪に囲まれたこの地の冬はすさまじく、冬になると家にこもりきりがちになる。その反動のようにケテルブルクはクリスマスが近づくと街のあちこちに譜業で明かりを灯す。雪はその光を反射し青く輝く。それを見るために遠くからはるばるこの時期だけ来る貴族も少なくない。自分でも故郷に思い入れのないほうだと思っているジェイドもケテルブルクのクリスマスは好きだった。グランコクマのクリスマスは町中にクリスマスソングが溢れ、華やかか過ぎてジェイドはあまり好きではなかった。ケテルブルクも音楽を流してはいるのだが、雪に大半の音が吸い取られるため首都ほど煩くはない。



「わぁ!すげぇすげぇ!!きっれー!!」
目をきらきらさせてルークはケテルブルクの街を見下ろす。
そのあまりに素直な様子にジェイドは思わず笑みをもらした。
「な、なんだよ!笑うんじゃねーよ!悪かったな子供っぽくて!」
「いえいえ、そういう風に感情を表現できるのは羨ましいと思っただけです」
「ふうん?」
正直に言ったつもりだったが、ルークとしては言い訳にしか聞こえなかったらしい。憮然とした表情をしている。
「でもちょっと意外だったな。ジェイドがこんなとこに連れて来てくれるなんて」
「そうですか?一応地元ですから」
「そうなんだけどさ。ジェイドがいいところに連れて行ってくれるって言うから、どんなとこに連れて行かれるかと正直ちょっと怖かったんだ」
「ほんとに正直ですねぇ」
「でも、本当に綺麗だな。地面に星が落ちてるみたいだ」
「地上の星ですか。ルークにしては詩的な表現ですね」
「そうかな、そんなつもりじゃないんだけど・・・。ただ綺麗だと思っただけで」
ルークが目を細めて眩しそうに光を見下ろした。その姿が消えてしまいそうでジェイドは思わずルークの腕を掴む。
「ん?どうした?」
「いえ、なんでもありません。ここは冷えます。もうそろそろ戻りましょう」
「ん〜、でもこんな綺麗なの生まれてはじめて見たし、きっともう見れないから、もうちょっと見ていたい」
運命はあらゆるものをルークにとって最後のものにさせる。
「また来年くればいいでしょう」
「、でも俺はもう・・・」
ジェイドとて無理なことは分かってる。否、ジェイドが一番分かっている。それでも。
「ルーク、また来年二人で来ましょう?」
「・・・・・・そうだな。また来よう。来年もその先もずっとずっと」
果たされないことを知っている約束を交わしてそっと笑いあった。

聖夜に奇跡が起こるというのなら、この約束を叶えろとは言わない。せめてどうか今だけは共にいる未来を信じさせて欲しい。だから悲しい明日から目を塞いで、叶わない未来を願って嘘を吐く。

「ジェイド、ありがとう」
泣きそうに笑うルークが愛おしくて、切なくてジェイドはそっとルークのまぶたに唇を落とす。
「どうしたしまして。とりあえずお礼はこれでいいですよ」
「〜〜〜〜〜〜〜!!」
顔を真っ赤にして口をパクパクする様子が金魚のようだとジェイドは笑った。
「いい加減寒いですし、続きは部屋でしましょうか。金魚さん?」
顔が赤いことを揶揄されたことに気付いたのか、ルークの顔がますます赤くなる。それにこっそりと笑いながら、ルークの手を引き街への道を歩き出した。繋いだ手は凍るような気温に反して温かい気がした。



二人が進む先で地に落ちた星がただ輝いている。