「ジェイド。ジェイド」
くいくいと袖を引っ張られる。
「何ですか?」
「とりっくおあとりーと!」
「は?」
「だーかーら とりっくおあとりーと だって」
「ああ、trick or treat ですか。そういえば今日はハロウィンでしたね」
「そう!さあさあイタズラされたくなきゃ、菓子出してみろ」
にっとルークが笑う。
ふむ。
「どーせジェイドは甘いものなんてもってないだろ♪」
「確かにあまり甘いものは食べませんね」
「だろ?じゃあ大人しくイタズラ受けるしかむぐっ」
「ほらほら、おいしいですか〜」
「むぐむごむぐ」
酸欠で顔が赤くなってきたところで、押さえていた口から手を離す。
「…っぷは!な・なにすんだよ!!」
「おや、お菓子が欲しいと言うから差し上げたまでですよ。甘かったでしょう?」
「甘かったけど!!だいたいなんでジェイドがチョコなんて持ってるんだよ!!」
「先ほどアニスよりいただいたんですよ。このことを予想していたなんてさすがはアニスですv」
「ちぇ〜。アニスのやつ、せっかくジェイドにイタズラできると思ったのに…」
「さて、ルーク?」
「な・なんだよ…」
ルークは空気を察したのかじりじりと後退する。が、ジェイドはその腕を掴み引き止めた。
そして耳元で
「trick or treat?」
「え?」
「おやおや、ないんですか?それじゃあ悪戯されるしかありませんねぇ」
「ちょ、まて」
「さぁ、覚悟はいいですか♪」

お菓子と悪戯、選ぶつもりはありません。



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「とりっくおあとりーと!」
楽しそうなその声にアニスが振り返ると、ルークがシーツをかぶってガイに両手を出していた。
(ああ、そういや今日はハロウィンだっけ。アニスちゃんとしたことが忘れてた)
ガイはシーツをかぶったルークに螺子が飛んだのかルークに抱きついている。
(あ〜あ〜なにやってんだか。確かにルークはかわいいけどさ)
もがいてもがいて、やっと離してもらったルークはガイにお菓子をもらってご満悦だ。
ガイはガイでその様子を見て幸せそうだ。偏執狂といわれてもしかたがない。
(ふーん。ガイちゃんとお菓子用意してたんだ。まあどうせルークにハロウィン教えたのガイだろうし、当たり前か)
お菓子を手に入れてご機嫌のルークがこちらに歩いてきた。
「ルーク、ハロウィンなんてよく覚えてたね」
「アニス。毎年ガイがこの時期になると色々着せてくるから忘れようがねーよ」
「へぇ(汗)」
(あの偏執狂、いったい何着せてやがった)
訊きたいような訊きたくないような微妙な気分である。
「そ・そういえばお菓子貰ったみたいだけど、もしガイがもってなかったらそうするつもりだったの?」
「ん〜膝かっくん?」
「へ、へぇ」
(ガイなら悪戯でも喜びそうだな)
「そうだ。ガイがいっぱいくれたからアニスにもやるよ」
ばらばらと色とりどりの包装に包まれたチョコを手に落とされた。
「ありがとー。でもアニスちゃんにはトリックオアトリートってしなくていいの?」
「だってあれは大人にやるもんだろ?アニスは貰う側じゃん」
「そっか、でもアニスちゃんはお子ちゃまのルークと違って大人だからそんなことしませーん。あ・でもでもぉ貢物だったらいつでも受け付けるからv」
「ふーん。アニスもやればいいのに」
「い・い・の!」
「まあいいや。じゃ、俺次行くから」
駆けていくルークの後姿を手を振って見送る。
(ん?次ってルーク一体誰に…)
相手は当然大人だろう。ガイはもう済んだし、他に大人っていったら…。
ますい。あの人がお菓子なんか持っているはずがない。そんなのはルークだって分かっているだろうに。お菓子が目的じゃないと言うことは、当然イタズラということになる。
(〜!!ルーク、大佐に膝かっくんはまずいよぅ〜!!)
アニスは走った。ルークより先にジェイドを見つけなくては大変なことになる。
自業自得と言えば自業自得だが、純粋にハロウィンを楽しんでいるルークが可哀相な目にあうのはなるべくさけたい。
(とりあえず、ジェイドにお菓子を渡してそれで済むようにしなくっちゃ)