このイラストは持ち帰りフリーです。良かったらどうぞ。
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スクロールすると小説があります。























輝く緑。
小高い丘。
やわらかな風。
突き抜けるような空。
そして何より君がいる。
これを幸福と呼ばずなんと呼ぼう。



 ジェイドたちは休憩を取っていた。このあたりは特に強い敵がいるわけでもなく、そんなに疲労はなかったが、太陽は頂点を少し過ぎたところで、つまりは空腹だったのだ。料理はナタリアとガイに任せ(本来はナタリアだけが当番だったのだが、不安を感じたのでガイを付けた)ジェイドはいつものように本を読んでいた。



「ジェイド!ジェイド!」
 子供の呼ぶ声に本から顔を上げるとパサリと頭の上に何か乗せられた。
「なんですか、これは」
 触れてみるとどうやら編んだ草のようだが、脆そうで掴んだら壊れそうだ。
「ん、花冠。アニスに教えてもらったんだ!」
「そうですか。それでどうして私に?」
「俺はアニスに貰ったから……。こいつはジェイドに貰ってもらえればいいと思ったんだ」
 そう言われて初めて朱い髪の上に緑と白で彩られた花冠が乗っかっていることに気付いた。しっかりと綺麗に編まれたそれは髪の色に映えている。
「おやおや。貴方にしてはずいぶん綺麗にできていると思えば、それはアニス作ですか」
「な・なんだよ!悪かったな不器用で!!」
「いえいえ〜だれも悪いなんて言ってませんよ。それで私にくれたのは貴方が作ったんですよね」
「あ…うん。ごめんな、なんかボロボロで。一応頑張ったんだけど、やっぱ駄目だな」
「そんなことありませんよ。それにしても花冠ですか・・・」
「え?まずかったか?」
「普通いい歳した男性に花冠は渡しませんね」

 きっとティアあたりに贈れば喜ぶだろう。本人は隠している様だが可愛いものが好きな彼女はきっと花冠に対してもそれを乗っけたルークに対してもその情熱を向けるだろう。

それが分かっているのにどうして私はそれをルークに告げないのだろうか。
この花冠が欲しいから?
そんな35歳にもなってありえない。(もっとも子供のときも欲しがった記憶はないが)
この子供の作った物ならどんな物でも、他人には渡したくないと思うなんて、どうかしている。

「そっか…。迷惑だったかな。でも俺はジェイドにあげたかったんだ」
「まぁ、いいんじゃないですか。せっかくですから貰ってあげますよ」
 どこまで素直じゃない口に我ながら少し呆れる。
「うん。貰ってやって。この花いい匂いするし、ジェイドに似合うかなと思ったんだ」
「確かに白詰草は蜜原植物ですから、甘い匂いがするかもしれませんね」
 似合うのは貴方のほうですよという言葉を飲み込んで、そんな葛藤に気付かれないように話をそらす。
「シロツメクサ?これってクローバーじゃないのか?アニスがクローバーって言ってたけど」
「いえ、クローバーでも合っていますよ。クローバーとは一般的に白詰草を指しますから。この植物は色々役に立つそうですよ」
「どんな?」
「さっき言ったように蜜原植物ですからハチミツが採れます。あと葉は茹でれば食用にできますし、強壮剤や痛風の改善薬にもなるそうです。解熱・鎮痛効果もあるそうですよ。まぁ、本で読んだだけですが」
「へ〜!すごいんだな!!」
 目をキラキラさせて、説明を聞く様子に本当にこの子は変わったんだなと思う。いや、好奇心なら以前からあった。ただ私が気付かなかっただけだ。
「そういえば、さっきアニスが四つ葉のクローバーを見つけたらいいことがあるって言ってた!」
「確かにそういう伝承もありますね。・・・・・・ルーク、探すなら日光の当たらない場所か人が良く通る場所を探しなさい。四つ葉は二酸化炭素と日光が少ない場所か何か衝撃が加わることによって突然変異を起こして出来るそうですから」
「うん!わかった!ありがと!!」

 そういうとルークは木陰のほうへ駆けて行った。確かにあのあたりなら1日中、日光が当たりにくいからあるかもしれない。ジェイドは緑の上でぴょこぴょこ揺れる赤毛をしばらく眺めたあと再び本に目を落とした。

風が花冠を揺らすのが何故だかすごく、くすぐったかった。





 ジェイドが本を読み終え、次の本を読むか迷っているといい匂いがしてきた。どうやらガイはナタリアを無事、邪魔できたらしい。

「おーい!旦那ぁ!飯が出来たんで、悪いがルークを呼んで来ちゃくれないかー!!」
 ガイの言葉にやれやれと腰を上げる。
「年寄りをこき使うなんて、ひどいですねぇ」
 そう言いながらも、どこか足取りが軽い理由は考えない。すぐにルークを見つけることが出来たのは、単に緑の中にあの赤毛は目立つからであって、他に理由なんてない。きっとない。
「ルーク、ちゅうしょ・・・」
「ジェイド!見つけた!!」
 昼食ですよ、と声をかけようとしたら、勢い良くルークが振り向いた。
「ほら!四つ葉!!」
「ほぅ。すごいですね。私も本物ははじめて見ました」
「そうなのか?へぇ〜。なあ!なあ!これを持ってると幸せになれるんだよな?」
「ええ、そういう話ですね。確か四つの葉それぞれが名声、富、誠実な恋人、健康を示していて、それら四つが揃って初めて幸福になれるそうです」
「ふ〜ん。じゃあこれ、ジェイドにやるよ!」
「いいのですか?あなたが探したものでしょう」
「いいんだ!別に俺、今が幸せだから。これ以上、名声も富も健康も、こ・こいびと?もいらねぇもん」
「おやおや、ルークは自分の要らないものを私に押し付けるというわけですか〜」
「ち・ちげぇよ!!おれは!ただジェイドに幸せになってほしいなって・・・!!」

どうしてこの子はこうなんだろう。
人の幸福ばかり祈って、こんな状況で自分のことを幸福だといえるなんて。
これじゃあ、もうしょうがないじゃないか。
抱きしめたいと思うのも、幸せになってほしいと思うのも。
この死霊使いにそんなことを思わせるなんて、この子はキムラスカから対死霊使い用に送られた兵器なんじゃないだろうか。
そんなくだらない冗談まで浮かんでくるなんて、本当に末期だ。

「ありがとうございます。大切にしますよ」
「うん!」
 へへ・・・と照れて笑いながら、立ち上がって服に付いた汚れを落とすルークの手は緑に染まっている。
それだけでルークがどれだけ一生懸命、探したか想像が付く。

思わず、昼ごはん〜♪なんて歌いながら歩くルークの腕を掴んで引き止める。
「ん?どうしたんだ。ジェイド」
「ルーク。四つ葉の幸福を貴方がいらないなら、貴方がくれた幸福で今度は私が貴方を幸せにしてあげますよ」
「な!な!恥ずかしいこといってんじゃねー!!」
そう叫んで、ルークは駆けて行ってしまった。

ルーク。
四つ葉のクローバーなんかじゃなくたって、貴方がくれたものならなんだって私を幸せにしてるなんて気付いていないんでしょう?
ああ、本当にどうしようもない。



四つ葉のクローバーを見つけたら



幸せになれるの




 おまけ

「そういえば知ってました?四つ葉のクローバーの花言葉は『わたしのものになって』だそうですよ」
「ふ〜ん」
「おや、興味ないですか?てっきり私はルークなりの愛の告白なのかと思ったんですが」
「ち・ち・ち・ちげぇよ!バカ!眼鏡!!」
「そうですか、残念ですねぇ」
「!?(残念なのか!?)」