天は高く、神はいずこに?
目覚めて先ず横に眠る男を確認する。生きているか、まだここにいるか。それはもう癖のようなものだった。そうだ俺は何時だって怯えているのだ。数年前、彼が死んだあの日から。白い、それでも鍛えられた腕をそっと掴む。とくん、とくん。穏やかな脈に息を吐いた。時折、無性にこの音を止めてやりたくなる。そのほのかな殺気にこの男が気付かないはずないのにそれでも眠り続けているのは、むしろそれこそこの男の望むことなのかもしれない。一人だと眠れないのだと、そう告げられるままに肌を重ねる。最中にこぼれる言の葉に耳を塞ぎ、力尽きるまで抱いた。悪夢も見ず、眠る男の顔はいっそ聖人のように穏やかだった。 *****
天井に自分の手が見えた。何かを掴むかのように伸ばされている。 「目が覚めたのか。……どうした変な顔して?」 上半身を起こすと既に起きて身支度を整えていたピオニーがいた。ジェイドを見ていぶかしげな顔をしている。そこではじめてジェイドは今まで己が見ていたものが夢だと気付いた。そして自覚したとたんに夢はその形を薄れさせていく。それでもその夢の端を逃がすまいとジェイドは夢の欠片を語った。言葉にしなければ消えてしまいそうだった。 「……夢を見ました。よく覚えていませんが、サラダを食べるんです。何人かが入れ替わり立ち代り、私と。……ルークもいた気がします。それがルークだったのかももう分かりませんが」 「……そうか。ルークは笑っていたか?」 金色の皇帝がゆっくりと寝台に近づき座った。夢に彼の姿はあっただろうかとぼんやりと思う。 「笑ってた気がします。世間話をしながらサラダを食べて……笑ってました」 「うん、よかったな」 そう言いながら大きな手がそっと髪を撫でる。その手を心地良く感じながらそれでもどこか現実のものではないような気がした。 「でも陛下、ルークが言ってたんです。・・・『しょせん夢は夢だ』と」 ピオニーは私を哀れむような、悲しげな目で見ていた。唐突に私は自分がぼろぼろに泣いている気がして、無理やり笑った。彼に心配をかけるべきではない。苦笑になってしまった気がしたが、そこはご愛嬌だろう。 *****
「だいじょうぶですよ、陛下。ほら、私は笑っているでしょう?」 まるで子供に言い聞かすようにジェイドは言った。笑っているつもりらしいが、その顔には何もなかった。笑顔も涙ですらも。ただ虚ろな目の男が俺を見ていた。そして俺はその絶望を嘆くのだ。 |
おお、神よ!