じっと。

 ジェイドはルークを見ていた。

 じっ。

 間違いなく、これは先月の仕返しだ。大人げないと自分でも思うが、今日という日のことを考えれば、それは妥当な行動であるとも思えた。

 気のせいかもしれないが。

「…………」

 ジェイドの視線の先で、ルークは青いチーグルをいじくり倒して遊んでいる。ジェイドがルークを見ていることに気付いていないわけではないのだろうが、気にした様子は全く見えない。

 さて――自分は、ルークのどこが好きなのか。

 先月の意趣返しをしようと、ジェイドはルークを観察する。

 じっ。

 整った顔をしているとは思う。けれど、そこが好きなのかと言われれば否だ。なぜなら、同じ顔をしているアッシュを好きだとは到底言えないから。

「みゅう!みゅみゅう!」

 同じ顔でも小動物を連れていると違うものだろうか。

 少し考えて、ジェイドはミュウを連れたアッシュのイメージを破棄した。似合わない。何故似合わないのか考えてみる。表情だろうか?

「うりゃうりゃうりゃ!」

 ミュウで遊ぶ(恐らく本人たち的には一緒に遊んでいる)ルークは楽しそうだ。

 子供のようにあどけない表情を浮かべるところは気に入っている――と思う。ならばそこが好きなのか。否。ジェイドは子供が嫌いだ。

「なージェイド。お前も混ざるか?」

 ジェイドの視線にもその理由にも気付いているだろうに、ルークは何事もないように声をかけてきた。

「……いえ結構です」

 一言で返す。

「そっか」

 ルークもそれに軽く返して、ミュウとの戯れ(としか言い様がない)に戻る。

 ジェイドのことは本当に気にしていないらしい。

「………………」

 例えばそういう自分に対する遠慮のない態度が好きなのだろうか?――否。遠慮のなさではルークの上をいく皇帝が、その考えを放棄させる。

 じっ。

「あ」

 ジェイドの目の前で、ベッドの上ではしゃいでいた主従がはしゃぎすぎてベッドから転がり落ちる。

 ごち、と痛そうな音がした。

 ――馬鹿だ。

 呆れてため息をつこうとして、同時に『助け起こしてやろう』と思っている自分に気付く。

 ――ふむ。

 たまにドジをやらかす辺りに好感が持てるか。……断じて否。もうひとりの幼馴染を思い出して即否定した。

「……大丈夫ですか?」

「……だいじょうぶ……」

 頭を押さえてうずくまるルークは、震える声で返してくる。

 それに苦笑して差し伸べたジェイドの手を、ルークは両手で掴んで笑った。

 ルークの笑顔は好きだ。が、別に怒っていようが泣いていようが好きなのだから、それは理由にならないだろう。よって笑顔が好き、は否。

 どんな表情でもいいなら結局顔が好きなのか。それは最初に否定した。

「ところでさージェイド」

 堂々巡りを始める思考を、ルークの声が止める。

「なんですか」

「そろそろ答え出た?」

 全身が固まった気がした。恐らくほんの短い時間、ジェイドの動きは完璧に止まっていただろう。

 止まったままの頭で、それでもルークに気付かれていないことを祈る。

「………………」

「まだなんだな、分かった」

 それだけ言ってあっさり引くルークが少し恨めしい。

「………………」

 意味もなく天を仰ぎたい気分だった。

 ――きれいな顔をしていると思うが、アッシュと同じ顔を『好き』だとは言えない。

 ――ミュウとじゃれている姿は微笑ましいが、それではルークが『好き』だとは言えないだろう。

 ――外見に似合わぬ子供っぽさは、ジェイドが子供を『好き』でない以上理由としては挙げられない。

 ――ジェイドに対して遠慮がないのが『好き』と言うのであれば、ルーク以上に遠慮のない皇帝はどうなるのか。

 ――ディストで既に嫌気がさしてしまった馬鹿な失敗を『好き』だと言うのは抵抗がありすぎる。

 ――どんな表情でも『好き』ならば、顔が好き、とどこが違う?

 例えば。例えば。例えば。

 いくら考えてもルークの『一番』が見当たらない。

 それでも、ジェイドがルークに向けるこの感情は『好き』というものなのだ。間違いはない。己の唯一誇れる感情。

 それでも答えは結局見つからないままで。

 ……はあ、とジェイドは諦めのため息をつく。

「ルーク」

 名を呼べば、ルークは待ってましたとばかりに顔を輝かせて近づいてきた。

 にこにこ笑って差し出された手にラッピングされた袋を落として、ジェイドは口を開く。

「貴方のどこが好きなのか考えていたのですが」

「うん」

 楽しそうに笑っているルークに、言ってもいいものかどうか逡巡する。が、ルークのことだ。言わずにすます、などということはないだろう。こういうことで自分が嘘をつけるとも思えない。

 だから――

「分かりませんでした」

「……はあ?」

 素直に吐き出されたジェイドの言葉に、ルークは本気で呆気に取られた声を返した。

 先ほどまでの笑顔が消えて眉間にしわがよる。

「ちょっと待てジェイド。お前さっきからずっと俺のこと見てて結局それかよ」

 表情までアッシュと同じなのにそれでもルークが好きなのは何故だろうかとこの期に及んで考えるジェイドに、ルークが据わった目で詰め寄った。

「ちょっとつらつら考えてたこと言ってみろ。内容如何によってはこれ叩き返して一発殴る」

 ……一発殴られることは覚悟しておいたほうがいいらしい。

 ルークをなだめる言葉を考えながら、ジェイドはため息とともに言葉を吐き出し始めた。



「……と、いった感じですが――ルーク?」

 一通り語り終えたジェイドの前で、ルークは俯いていた。

「………………お前、」

 声も握った手も震えている。

 さてどうやって押さえたものか、と考えるジェイドが答えを出すより早く。

「恥っずかしいやつだなちくしょう……!」

「……は?」

 顔を上げたルークの顔が赤い。涙目になっているのは、言葉の内容からして悲しみではなく羞恥からだろう。

「あーもー最悪だお前どーしてくれんだよもう!」

 ルークは喚きながらベッドに飛び込んで、布団を巻き込んでもがいている。

 ……自分は何か、突拍子もないことを言っただろうか?

 それでもルークがホワイトデーのプレゼントをしっかり持っているところを見ると、どうやらジェイドの言葉はお気に召したらしい。

 一体何が恥ずかしいのか、ジェイドには分からないが。




推察:
死霊使いの赤毛の子供に対する
感情の原因について










「あのなあジェイド」

「なんでしょう?」

「そういうのはさ、全部『俺だから』好きだっつーんだよ」

「……ああ……そうかもしれませんね」

「…………やっぱ最悪だお前……」






結論:不明君が君だから







歓歓踏様から頂きました!
バレンタインと対になっているホワイトデーフリー小説です。ジェイドが馬鹿っていうか、ばかっぷる?ですごいときめきます。
この場を借りて、いつも素敵な小説ありがとうございます。