爺ちゃんと俺

72p 700円


<内容>
・爺ちゃんと俺の日常 : 日常の話。
・爺ちゃんと俺とこの世界の話 : 設定の話。
・爺ちゃんと俺とクラスメイト : 白蘭とハルが遊びに来ました。
・爺ちゃんと俺と魔法使いの弟子 : グイドとフランに会いました。
・爺ちゃんと俺とゲートボール大会 : ジョットと山本に会いました。
・爺ちゃんと俺と骸と綱吉 : これからの話。
・番外編 雲雀と骸 : 雲雀さん(にょた)と骸の話。

骸とショタツナが祖父と孫設定。
ほのぼの。基本的にツナ→骸です。
ツナ骸を前提として、骸爺ちゃんがいろんな人に愛されています。
いつかツナ骸になるための、限りなく骸ツナに近い、でも骸総受け気味な話。

※番外編は骸雲です。でも気持ち的には雲骸です。雲雀さんが女の子なうえに死にネタを含みます。

表紙は爽やかブルーこけしの夏野さんに描いていただきました。


↓さんぷる




  

『爺ちゃんと俺』サンプル。



「ただいまぁ」
靴を脱ぎ捨ててキッチンへ走る。廊下に放り出されたランドセルがどさりと音を立てて着地した。
「おかえりなさい」という母さんの声を受け取りながら、冷蔵庫からコーヒー牛乳のパックを取り出す。トクトクとグラスに注ぎ、それを一気にあおる。もちろん腰に手を当てるのは欠かせない。
「ぷはっ」
「まったく、あんたったらおっさん臭いんだから」
「別にいいだろー」
呆れる母さんの言葉にそう返して、俺はグラスをテーブルに置く。
「だいたい、手は洗ったの?」
「今から洗うって」
ひらひらと手を振ってキッチンを出ると、背後から「もうっ」という母さんの声が聞こえた。
洗面所で蛇口を捻り、手を濡らす。今日は暑かったから冷たい水が心地よい。一度水を止めて、石鹸を泡立てる。茶色く汚れた泡に随分と汚れていたのだと実感した。手を洗い終えて、塗れた手をタオルで拭くために顔を上げると、鏡が見えた。
正確には鏡に映った自分の姿が。
あごは尖らずに丸みを帯び、その上で茶色い髪は重力に逆らってツンツンと跳ねている。同じく茶色い瞳は女の子のように大きい。
「どう見ても子供だよなぁ」
そしてやっぱりあいつには似ていない。溜め息を吐くが、どうにもならないことだ。
タオルで手を拭いて洗面所から出る。向かうのはリビングだ。
「あれ?いない」
誰も居ないリビングで首を傾げて、俺は和室に向かう。引き戸を開けて中を伺うが、畳の匂いがするばかりで、部屋の中には誰も居ない。
「あっれぇ?」
再び首を傾げて、俺はキッチンに居るだろう母さんに向けて叫ぶ。
「ねぇ、むくろはーっ?」
いくら姿を探しても見つからない。普段はいつも家にいるのに。
「こらっむくろじゃなくておじいちゃんでしょっ」
キッチンから出てきた母さんが俺を叱る。「はぁい」と口では言ってみるが、反省をする気は全然ない。骸自身は別に良いって言ってるし、それにあれにおじいちゃんとかおかしいじゃん。
「おじいちゃんなら今日は公園に出かけられたわよ」
我が子がちっとも反省していないことに気づいたのか、溜め息を吐きながら、それでも骸の居場所を教えてくれた。
「公園?」
「ええ、ゲートボール大会なんですって」
年甲斐もなくはしゃいで腰痛めなきゃいいんだけど。頬に手を当ててそう心配する母さんに俺は微妙な気持ちになる。気にするべきはそこじゃないだろう。
ゲートボールとか一体どこの年寄りだよ。いや、年寄りだけど。でもあの見た目で他のじーさんばーさんと混ざっているのは明らかに浮くだろ、ふつう。
「どこの公園?俺、行ってくる」
別に行ったところで何をするつもりもない。せいぜい笑うか呆れるか、それとも身内だから恥ずかしくなるのだろうか。まぁ、とりあえずは興味本位だ。骸がどんな顔でゲートボールなんてものをしているのか見てみたい。
「本当にあんたはお爺ちゃんっ子ねぇ。お爺ちゃんの邪魔しちゃ駄目よ?」
呆れながらも微笑ましそうにそう告げる母さんに「はぁい」と返事をして、俺は再び玄関に向かった。脱ぎ捨てた靴を拾って、かかとを踏んづけたままつま先を入れる。
「公園、公園っと。……あれ?」
家を出た道で右に曲がって、公園のある方へ向かおうとすると、道の先に人影が見えた。
すらりと背の高い若い男だ。いや、後ろ髪が長いし細身だから知らない人はこの距離からなら女の人だと思うかもしれない。けれど俺はこれが誰だか知っている。
その人物見つけた瞬間、俺の足は駆け出していた。距離を縮めれば、男の容姿がはっきりしてきた。歳は二十代後半といったところだろうか。長く伸びた襟足を一つに結んでおり、さらさらのストレートなのに頭頂部の一部分だけがぴょんぴょんと跳ねている。細身の身体に纏うのはシンプルなポロシャツとジーンズで、年齢にしては少し落ち着きすぎているかもしれない。しかし、それでも似合っているのはその顔とスタイルが整っているからだろう。所謂美形は何を着ても似合うって奴だ。けっ。
男は俺に気づくと微笑んで、穏やかに手を振った。緩やかに細められた瞳は鮮やかなオッドアイ。
俺は駆けて駆けて、あと数歩で彼にぶつかるというところで、更に足に力をこめた。
「むくろっ」
「おっと」
跳びついた俺を骸は少しふらつきながらも受け止める。昔はふらついたりはしなかったのに、歳だろうか。それとも俺が大きくなったからだろうか。
「おかえり!」
「くふふ、ただいま戻りました」
ぎゅっと腰にしがみつく俺を、骸はいい子いい子とばかりに撫でた。その子供扱いに少しむっとする。