↓さんぷる
雲雀に協力を取り付けて、真剣に綱吉の恋を応援することを決めた僕は、こっそり手を回して彼と笹川京子が二人きりで帰るようにしたり、雲雀に彼らを同じ係にするように頼んだりと暗躍していた。
上手くまわす為には現状を観察する必要があり、そうやって綱吉のことを見るたびに僕の胸は痛んだのだが、そんなのは瑣末なことである。彼らが二人で歩いているのを見ていると、無理やり手を繋がせたくなると同時に間に割って入りたくなる。まったく困った感情だ。
恋しさに苦しくなり、進展のなさに苛立ち、嫉妬に妬かれる。ころころと忙しない心を宥めて僕はただ二人を見つめた。
ともあれ計画は順調のようで、少しずつほんの少しずつではあるが二人はちょっと良い雰囲気になっているような気がする。
綱吉も以前よりは動揺せずに会話が出来ているようだ。何かと二人きりにした成果だろう。
「でもいまいち決め手に欠けるんですよねぇ」
穴の空いたソファにもたれて骸は溜息を吐く。対する雲雀もソファに腰掛けてもくもくとトンファーの手入れをしている。
今日の分の契約は遂行済みだ。
その結果がこの荒れた部屋である。毎回他の場所に移ったほうがいいのではないかと思っているのだが、まぁ持ち主の雲雀が構わないのでいいのだろう。もっとも実際はこの部屋は学校のものであり、部屋の修復を手配するのは副委員長の草壁であるのだが。
「いっそ密室に二人っきりで閉じ込めますかねぇ。黒曜生にでも襲わせて、それから逃げるために的な。反撃されないように予め手袋と死ぬ気丸は奪っておくとして。どうです? これなら吊り橋効果も狙えそうじゃないですか?」
「……それはやめときなよ」
珍しくも雲雀恭也が後輩を庇った瞬間であった。綱吉は彼に感謝すべきである。もっとも彼がこのことを知る機会は永遠にないのだが。
というか本当に骸は彼のことが好きなのか、雲雀は思わず疑った。
「ふむ、まぁ雲雀くんがそう言うのならやめておきますか」
こと綱吉に関してはあまり自分の行動に自信を持てない骸は素直に頷いた。雲雀に相談しているのはそのストッパーを期待してというのもある。
恋愛感情に振り回されて愚かな行動を起こす人間を骸は何人も見てきた。ああはなりたくはない。
そんなことを考えていると携帯が鳴った。この音はメールだ。雲雀に断って携帯を開く。
「ひ、雲雀くん!」
「どうしたの」
上ずった声をあげる骸に雲雀がぎょっと目を見開いた。
「どうしましょう! 沢田綱吉からメールが! 相談したいことがあるって!」
「とりあえず落ち着きなよ」
呆れたような雲雀の言葉に確かにと頷く。
実は前回メールが来たときも脳内ではこんな事態になっていたのだが、そこは子供たちの手前落ち着いている振りをしたのだ。
基本的に骸はかっこつけたがりだが、幸か不幸か雲雀はその対象から除外されている。この場合、不幸かもしれない。
「そ、そうですね。落ち着かないと。とりあえずメールを保存して……。ああ、でもどうしましょう! 何気に自覚してから会うの初めてなんですけど! 一体何を着ていけば・・・!?」
「だから落ち着きなよ……」
二回目の雲雀の言葉が荒れた部屋の中で虚しく響いた。