むくたん

骸の誕生日を皆に祝ってもらってみた。





一番手:最初はやっぱりプリーモ様
二番手:まさかの山本なのなー
三番手:不幸上等!スクアーロ先輩
四番手:純情少年、獄寺君
五番手:ツンツンデレデレ雲雀さん
六番手:元副委員長の草壁です
七番手:Sと見せかけ実はM?な白さま
八番手:愛人?本妻?ハルハルです!
九番手:オリキャラなっちゃん(綱吉娘)
十番手:可愛い僕のクローム
十一番手:ランボさんだもんねー!
十二番手:最後はこの方!綱吉くん






.ジョットと骸



「お前に、祝福と呪いを贈ろう」

 僕の頬にそっと手を当て、彼はそう言った。僕はその意味が分からず首を傾げる。彼はそんな僕を見て微笑むと、幼子に言い聞かすように繰り返した。

「骸、お前に俺が出来うる限りの祝福と呪い贈ろう。いつか俺はお前を残して死ぬ。誰もがお前を残して死に絶えるだろう」

 彼の言葉に僕は眉を寄せた。そんな未来の話なんて聞きたくない。怖い。悲しい。

「それでも、いつか俺の血筋がお前を愛す。もう一度お前に会いに行くよ」

 まるで祈るように目を瞑り、彼は僕の額に自らの額を当てた。

「なぁ、骸。一人は寂しいものだ。だから俺のことは忘れて良い。それでも一つだけ覚えておいてくれ。方法は愛でも憎しみでも何でも良い。ただこれだけを記憶の片隅に残してくれ。忘れるな、俺は此処にいる。マフィアとしてきっとお前に再び会える時まできっと此処に」

 そう言うと、彼はそっと指輪に口付けた。

「ジョット・・・?」

 彼の意図がまるで分からず、不安になる。なんだろう、嫌な予感がする。思わずしがみ付く僕を彼は痛ましげに見た。どうして。彼の掌が僕の額に近づく。

「ずっとずっと愛しているよ、骸」

 彼の指が触れた瞬間、浄化の焔が僕を焼いた。視界も意識も、彼との記憶すら。



  はじまりはやっぱりこの御方









.山本と骸



「お、骸。ちょうどいいところに」

 こっち来い、こっち来いと手招きされるままに近づくと、ぐいっとネクタイを掴まれた。

「なんです、ん」
「お前今日、誕生日なんだろ?何も用意してないからとりあえずこれで勘弁なー」

 にかっと山本武はいつものように笑みを浮かべた。思わず呆然とそれを見つめる。え、えっと今のは・・・?

「おーい骸、生きてるかー?」

 目の前でひらひらと振られる手のひら。その動きを見てようやく自分が今何をされたか気が付いた。

「・・・・っ」
「骸?」

 固まった自分を心配したのだろう。覗き込む黒い瞳を見た瞬間、腕が動いた。
  ばきっ
 あまりにも見事な右ストレート。それに男が倒れ付すより前に骸は両手を自らの顔に押し当てた。

 まったく、なんてことをするのだろう。顔が熱くて仕方がないじゃないか!



  骸は天然に弱い気がする。










.スクアーロと骸



 見覚えのある長い銀色の髪を見つけて、思わず口角が上がる。退屈に思っていたところにちょうどいるなんて、なんてタイミングのいい人だろう。

「くふふ」

 あえて気配を消さずに背中に駆け寄る。へたれでも一応暗殺部隊幹部、下手に気配を消したらそのほうが察知されやすいのだ。一方、騒がしいのは日常茶飯事。予想通り彼は足音を気にも留めない。

「せーんぱいっ」
「うお!?」

 あえて勢いを殺さず加速度そのままにタックルを食らわすと、スクアーロは面白いほど簡単に潰れた。腐っても剣帝。運動神経が悪いはずもないから、こうも簡単に転んだのはきっとそういう星の元に生まれてきたということだろう。床に顔からぶつかった彼の背の上で僕は一人うんうん頷く。

「うう・・・何し」
「大丈夫ですか!?すいませんっ僕こんなつもりじゃ・・・!」

 彼が怒鳴り起き上がろうとした瞬間に立ち上がり、いかにも反省していますという顔を作る。

「・・・・・・もうやるんじゃねぇぞ」

 ひとつ溜め息を吐くと、彼はこれだけでもう許してくれた。なんというか、僕が言うのもなんだがちょろいもんだ。いっそこっちが心配になるくらい。

「で、なんの用だぁ?」
「用って程じゃないんですけど、今日、僕の誕生日だからスクアーロ先輩におめでとうって言って貰えたらなって・・・」

 目は伏せ気味に、手はぎゅっと握って。分かりやすく物を要求したりはせず、謙虚過ぎるほど謙虚に振舞う。

「・・・・・・・・・」

 じぃっと銀色の瞳が僕を見つめてくる。沈黙が痛い。さすがに今回はちょっとやり過ぎだったか。もういい加減、わざとだとばれたかもしれない。

「あの、せんぱい?」
「うぉおいっ」

 そろそろと声をかけると、がしりと肩を掴まれた。あ、やっぱり怒ってる?

「何で誕生日ならさっさと言わねぇんだぁ!ほら来いっプレゼント買いに行くぞぉ!」

 そう言うなり僕の手を握り、ずんずんと歩いていく。その手の熱に胸がちくりと痛んだ気がした。

「・・・何を買ってくれるんですか?」
「ん、そうだなぁ。アルマーニドルチのチョコレートセットでも買うか?」

 何でもないように好物を勧めてこられて、思わず絶句する。

 ああ、これだから『いい人』ってやつは・・・!



  骸はスクアーロが大好きです。










.獄寺と骸



 今日もいつものように十代目の部屋に向かう。ノックは3回。それから声をかけてから失礼ながら寝室に入らせていただく。十代目は朝が少し苦手なご様子なので俺が直に起こさせて頂いている。今日もいつものように戸を叩こうとした瞬間、ドアが開いた。珍しいな、十代目がもう起きていらっしゃるなんて。

「おはようございます!十代、め?」

 頭を下げ、朝の挨拶をしようとした。しかし、視界にありえないものを見つけて動きが止まる。長い長い、青みがかった髪。明らかに十代目のそれではない。

「おや、獄寺君ではないですか。お久しぶりです」

 クフフ、と笑う男の声に一気に血がのぼる。まさしく久しぶり、約半年ぶりの六道骸の姿がそこにはあった。

「て、てめえ何でここに居やがる!?」
「会った早々にご挨拶ですねぇ」

 半年間、姿を消していた男とは思えない飄々とした振る舞いに俺の決して長いとは言えない神経がぶち切れそうになる。

「今まで何処に居やがった!十代目がどんなに・・・っ」

 そこまで言いかけて、声を止める。骸が驚いたかのようにきょとんと目を見開いていたからだ。まさかそんな顔をするとは思わなくて、こちらまで驚いてしまう。

「・・・心配、おかけしました」

 そう言って骸は柔らかく微笑んだ。その蕾が花開くような笑顔に俺は思わず息を呑む。

「べ、別に俺はお前なんて心配してねぇ」

 誤魔化すように、視線を骸から外して俯く。しかしその際に目に入ったものに俺は血を吐くかと思った。

「・・・なっ」
「な?」
「なんでお前そんな格好なんだよ!!」

 半年ぶりの帰還に気を取られて気付かなかったが、骸の格好はなんともその、…あれだった。白いシャツに黒いスラックスを穿いている。これだけなら普通に思えるが、シャツはほとんど意味がないほど肌蹴ており、その肌には点々と赤い鬱血が浮かんでいる。解けた髪は胸元にかかっていてなんとも艶かしい。意識したとたんに俺は自分の顔が真っ赤に染まるのを感じた。

「なんでって、ねぇ?」

 なるべく下を見ないように骸の顔を見つめれば、今度は逆にゆるりと持ち上げられた薄い唇に目が行ってしまう。というか、やっぱりこいつ十代目とそういう関係なのか!?そうなのか!?どうなんですか十代目!!

「とっとりあえず、これ着とけ!!」

 もうどうしていいか分からず、俺は自分の着ていたスーツのジャケットを骸に押し付け、そのまま逃げ出した。

「おや?」

 だから俺はそのときの骸がどんな顔をしていたのか見ていない。たぶん見ないで正解だった。もっともその後、骸が俺のジャケットを着ているのを発見して、再び血を吐きそうになったりしたので結果は同じだったかもしれないが。



  純情少年とエロテロリスト(笑)









.雲雀と骸



 似合わない物を持っているなぁ。名前を呼ばれたとき、そんなことを思ったのがばれたのかとどきりとした。

「はい、これあげる」

 そう言って投げ出されたものをとっさに受け取った。

「・・・あの?雲雀くん?これ」
「言っておくけど、別に君の為に用意したわけじゃないから。邪魔だから君に押し付けようと思っただけで」

 彼の考えが読めないのはいつものことだが、今回は本気で訳が分からない。仕方がなく、その真意を聞こうとしたら、被さるように一息でそう告げられた。

「えっと・・・」

 思わず目をぱちくりさせていると、彼の目が微かに細まった。たぶんあれは機嫌が良いときの表情だ。たぶん。

「今日、きみ誕生日なんだろう?別に君の誕生日を祝う気なんてさらさらないけど、きみも僕の誕生日を祝ったりはしてくれなかったし、僕たち別にそういう関係じゃないし、まあでも赤ん坊に言われたから、きみがどうしてもって言うのなら祝ってあげてもいいよ」

 彼らしくないマシンガントークに僕は思わず呆然とする。一体なんだというのだろう。今日は雹でも降るのだろうか。ええっと、彼は何て言ってたっけ。ああ、そうだ。

「そういえば、今日は僕の誕生日でしたね・・・」

すっかり忘れていた。そう呟くと雲雀くんはむっとしたように眉を寄せた。なんというか、機嫌がいいのは分かりづらいのに、不機嫌なのは分かりやすい人である。

「なに?忘れてたの?」
「はぁ、生憎子供の頃にそういう習慣がなかったもので・・・」

 それどころでもなかったしなぁ。当時のことを思い出し、そう言うと彼は何か考え込んむようにしばし黙った。うーん、もう行っていいでしょうか。というか、これどうしよう。

「・・・ん、でも・・・言った方が・・・」

 考え込むというより葛藤しているようだ。とりあえず、勝手に帰っても怒りそうだし、手持ち無沙汰に腕の中のものを抱えなおす。あーチョコレート食べたいですねぇ。

「六道!」
「はい?」

 ぼぉっと呆けているといつの間にか目の前にいた彼に服を引っ張られた。

「はっぴーばーすでー、ロクドームクロ」

 棒読みでそう短く告げると、彼は僕の鼻に一瞬噛み付いた。思わず噛み付かれた場所に手を当てるが、甘噛みだったのか痕すら付いてはなさそうだ。

「似合ってるよ、それ」

 僕の腕の中の物を指差し、そう言うと彼はにんまりと笑って去っていく。そのまるで彼が言うところの群れを見つけたときのような笑顔を僕はただ見送った。

「なんだったんでしょう・・・?」

 首を傾げ、腕の中のテディベアを見つめる。幼い子供ほどのサイズもあるそれは、ただただ黒い瞳で見つめ返してくるばかりだ。

「それにしても、噛み殺すって本当に噛むんだとは思いませんでした」

 そんなに嫌われることしましたかねぇ?尋ねてみてもテディベアは当然何も言わない。だが、もし言葉を話せたのなら言っただろう。この鈍感!



  雲雀さんが可愛くなると骸が鈍感になります。










.草壁と骸



「どうぞ」
「ありがとうございます」

 そう微笑んで大きな掌の上の小さな箱を受け取る。大きな手だ。僕のよりも彼のよりも大きな手。

「どうぞお茶でも飲んでいってください。今淹れますから」
「いえ、雲雀に呼ばれているので今日はこれで」

 立ち上がろうとした彼の手に触れ引き止める。触れた感触は荒れていて、彼とはかけ離れている。

「たまには雲雀くんにも自分のことは自分でさせたほうがいいんですよ」

 そっと肩を押さえて再び席に着かせると、哲也は困ったように笑った。押さえつけた力なんてほんの少しだ。ちょっと振り払えば簡単に解けてしまう。それでも彼はそんなことはしない。

「お茶、緑茶と紅茶どっちがいいですか」
「・・・・・・では緑茶をお願いします」

 ひとつ溜め息を吐くと、そう口に咥えた草を揺らした。僕はその動きにくすくす笑いながら茶の用意を進める。

「どうぞ?」

 白い磁気に玉露を注いで、彼に勧める。最近買ったお気に入りだ。

「ありがとうございます。すいません、気を使わせてしまったようで・・・」
「いいんですよ。いつもの贈り物のお礼です」

 そう告げると、哲也は少し焦ったような顔をした。

「あれは雲雀からですよ」
「雲雀くんにあんなセンスはありませんよ。彼ならもっとずれたものを贈ってきます」

 テディベアとか。にっこりと微笑むと彼は困ったように眉を下げて微かに顔を赤くした。ああ、やっぱりいいですねぇ。雲雀くんこの人僕にくれないでしょうか。

「今度、一緒にご飯でもいかがですか?」
「あ、いや、でも恭さんが・・・」

 ふぅっと息を吹きかけるとお茶が緑の波紋を作った。一通り、動揺している姿を楽しんでからそっと助け舟を出す。

「じゃあ、雲雀くんと一緒に三人で」

 クフフと笑いそう告げると、その様子を想像したのだろうか。哲也は安堵の後、絶望でもしたかのような顔をした。



  哲也いい!かっこいい!










.白蘭と骸



 ねぇ、何が欲しい?


 我ながら甘いと思う声を出してそう尋ねた。甘い甘いハチミツのような声。甘すぎていっそ喉が焼けるほど。

 何でも用意してあげる。

 そっと頬に触れると俺を睨みつけたまま、きつく眉を寄せた。後ろでに縛った縄がきしりと音を立てる。これ以上ない程の拒絶に思わず口が緩んだ。

 ねぇ、骸くん

 その名を呼ぶときはいつだって甘い声を心がける。きっと彼はその名の通り甘く甘く腐り溶けてくれるだろう。

 花はどう?骸くんなら何が似合うかな?
 桜、椿、シクラメン、普通に薔薇も似合いそうだよね。

 まるで俺の声など聞こえていないかのように、彼は俺を睨みつけたまま黙っている。口をきつく閉ざし睨みつける様からは、四肢を縛られ床に転がされているというのに確かなプライドが見えた。ああ、それを崩したのなら一体どんな顔を見せてくれるのだろう。

 ねぇ、何が欲しい?いっそ君が望んだようにマフィアを全て滅ぼしてあげようか?
世界大戦もいいよね。ボンゴレを壊したらさ、今度はどっかの国にでも仕掛けてみようか?

 ねぇ骸くん、何が欲しい?

 再びそう尋ねると彼は身をよじって俺の手を跳ね除けた。そして固く固く閉ざされていた唇を開く。

「要りませんよ。貴方からなんて何ひとつ」

 赤い舌を出して彼はそう嘲笑った。そのあらん限りの嫌悪を浮かべた表情に俺も嬉しくなって笑った。ああ、やっと口を開いてくれた。噛み切られることを期待して俺はそっとその唇に手を伸ばした。



  びゃくたまは肉体的Sで精神的Mではないかと…。









.ハルと骸



 高く括ったポニーテールが頭の上で跳ねるのを感じながら、くるりと振り返り後ろを歩く彼に指差す。

「ほらほら六道さん!これツナさんに似合いそうじゃないですかっ?」
「そうですか?彼なら隣りのやつのほうが似合いますよ」

 ショーウィンドウの中では二体のマネキンが立っている。ハルが指差したは黒いシャツを着ているほうだ。薄いブルーのストライプが入っているのがかっこいいとハルは思う。一方、骸が示したのは明るいオレンジ色のTシャツ。白抜きでアスタリスクが花のように入っているのが可愛らしい。

「ええ〜!あれは可愛すぎですよぅ。ツナさんにはもっと男らしいほうが似合います!」

 ぎゅっとこぶしを握り力説すると、骸も負けじと言い返してくる。

「何言っているんですか。綱吉君にはあれはかっこよすぎです。あれでは服に着られてしまうじゃないですかっそれはそれでいいですが!」

 互いにむむぅっと睨み合う。そして次の瞬間、同時に吹き出した。

「うふふ、なかなかやりますねぇ六道さん」
「くふふ、そちらこそ」

 ノリのいい骸との会話になんだか楽しくなってしまう。

「ねぇ、六道さん。あのTシャツの上に黒いシャツを羽織ったら素敵だと思いません?」

 まるで悪戯を企む子供のように笑うと、骸は微かに目を見開いた後同じくにんまりと笑った。

「そうですね。実際に似合うかどうか彼に着せてみましょうか」

 はい!頷くと骸はここで待っているようにと言い残して、一人店の中に入って行ってしまった。

「は!まさか手柄を独り占めにするつもりですか!?・・・むむむ、そんなことはさせません!ツナさんはハルが守って見せますっ」

 そう決意を新たにすると、自動ドアが開き骸が出てきた。手には紙袋が握られている。

「六道さんっ」
「お待たせしました。ちょっと後ろ失礼しますね」

 文句を言おうと駆け寄るが、骸にくるんと後ろを向かされてしまう。

「な、なんですか!?」

 ポニーテールを弄られている感覚がしておろおろしてしまう。出来ましたよ、そう言われてショーウィンドウを見ると鏡のようになったガラスの中にハルが映っていた。括った髪には可愛らしい花の形の髪飾りが付いている。

「これ・・・」
「似合いそうだと思ったので買ってきちゃいました」

 うん、やっぱり可愛いです。何の気負いもなくそう微笑まれて頬が赤くなるのを感じた。なんで、なんで、なんで!

「――もうっ六道さんはずるいですっ!」

 そんな綺麗な顔で微笑まれたら何も言えないじゃないですか!

 真っ赤な顔を隠すようにずんずんと歩き出す。足が向かう先はこの間見つけたガトーショコラの美味しい店だ。感謝デーはまだまだ先だが仕方がない。この美しい男にせめて一矢報いてやるのだ。



  女の子と仲良い骸は可愛いと思う。










.娘と骸



 木槌を握り締めて叩く壊す。本当は包丁のほうが良かったのだけど、生憎それを使うことは許可されていない。べきべきと崩れていくそれを見てナツはにんまりと微笑む。
 チン!
 甲高い音を立ててレンジが鳴った。慌てて駆け寄ると、スリッパがぱたぱたと音を立てる。戸を開くと蒸気が吹き出してきたので咄嗟に身を引く。一通り湯気がおさまってから、中のカップを取り出した。
 ヤケドしないようにつけたミトンはうさちゃんだ。何気に骸の手作り。言っておくが別にナツがうさちゃんを希望したわけではない。骸が勝手にうさぎにしたのだ。・・・まあ、嬉しくなかったとは言わないけど。
 そぉっと取り出したカップの中にはお湯が入っている。それを用意したボールに注いだ。覚めないうちに先ほど砕いたものを別の容器に入れて溶かす。ゆっくりと溶けていく姿を見て、ほっと息を吐いた。

「よかった。ちゃんと溶けたぁ」

 溶けなかったらどうしようかと思った。だけど、ここで落ち着いてはいけない。再び固まらないうちにこっそりお小遣いを溜めて購入した型を用意する。クマさんの形をしたそれに思わずへらりと顔が緩んだ。

「…ぅん、しょっと」

 型にどろりとしたそれを注ぐと、もう一度本を確認する。

「うん、あとは冷やすだけなのね」

 頷いて、型をとんとんと叩いて空気を抜く。とりあえずこれでオーケーとナツは無意識に入っていた身体の力を抜いた。
 しかし、その次の瞬間、こんこんと響いたノックの音にびくりと身体を震わす。

「ナツ?もう入ってもいいですか?」
「だ、だめ!あっちいってて!」

 慌てて駆け寄りキッチンのドアを押さえつける。こんなことしても骸が本気を出せば何の意味もないのだけれど、そうせずにはいられない。

「はぁ、分かりました。でも、ナツ!包丁と火使っちゃ駄目ですからね!」

 わかってる!悲鳴のようにそう答えると静かに骸の足音が遠ざかった。ふぅ、思わず息を吐き、その場にしゃがみ込んでしまう。

「ばれるかと思った…」

 足に力を入れて、立ち上がると先ほどのチョコレートを確認する。荒熱が取れて表面が固まってきている。うん、これならもう冷蔵庫に入れても大丈夫だろう。あとは完全に固まってから、骸に渡せばいい。

 本当はもっと凝った物をあげたかった。でも火も包丁も使わずに作れるのなんてこれくらいしかなくて、せめてと思ってクマさんの形にした。別にどんな形だろうと何だろうと骸が喜んでくれることぐらい分かっている。ううん、いっそ物なんてなくても「おめでとう」って言うそれだけで骸は笑ってくれるだろう。それでも。

「綱吉さんは僕の誕生日を忘れていることが多くて、僕がそれを怒ると済まなそうにごめん、来年こそちゃんとやるって言って、その年はおめでとうの言葉だけで済ましてしまうんです。でもやっぱりその次の年も忘れてるんですよ」

 ひどいでしょう?そう言って骸は幸せそうに笑ったから。だからナツはプレゼントを用意する。プレゼントを渡したら、きっと骸は笑うだろう。もしかしたら感動して泣いちゃうかもしれない。そしたら心の中で綱吉さんに言ってやるのだ。

ざまあみろ!



  ナツは別に綱吉さんが嫌いなわけではありません。










10.クロームと骸



 骸様にぎゅっとしがみついてみた。

「どうしました?可愛いクローム」

 骸様はいきなりの私の行動に怒りもせずに、そっと背中を撫でてくれた。その温かな手にすごく安心する。

「…骸様、今日お誕生日だって聞きました」

 胸元に押し付けていた頭を浮かし、骸様を見上げる。いつ見ても赤と青の目がとても綺麗。

「ええ、そうですよ」

 柔らかく微笑むと、骸様は私の頭を撫でてくれた。その手が心地良くて私は猫のように目を細める。以前、骸様に言ったら否定されたけれど、骸様といると私はいつも日溜りにいるような気持ちになる。

「ありがとう、骸様」
「なんですか?いきなり」

 微かに首を傾げる骸様に私は擦り寄る。そんな私に今日はやけに甘えん坊ですねと骸様は笑った。

「あのね、骸様。私も千種も犬も骸様のことが大好きなんです。だから」

 生まれてきてくれて、ありがとう。



  黒耀ずにとって骸は神様なので、『おめでとう』という観念はないんじゃないかと。











11.ランボと骸



 手の中の飴玉をころりと転がす。ブドウ味のそれはあの牛柄の子供から押し付けられたものだ。
 一体何が彼の琴線に触れたというのだろう。何故だか妙に懐かれている。

 骸さんだもんねー!なんて言いながら今日もぺちぺちと頬を叩かれた。毎回それなりの対応をして、それで泣いているというのに懲りない子供だと思う。

 幼いとはいえ、マフィアはマフィアだ。面と向かってマフィアは嫌いだと何度も告げた。にも関わらず、ランボさんは好きだもんねー!とまるで気にしないのだ。

 骸はマフィアが嫌いだ。そして愛されて育った子供も好きではない。だから彼になんて本当に関わりたくないのだ。あんな子供はあの甘い沢田家で何も知らずに生きればいい。雷の守護者になんて相応しくない。

 飴玉の包装を這いで口の中に放り込む。
 がりっ!
 噛み砕くと作り物のブドウの味が口いっぱいに広がった。子供のふっくらとした小さな掌を思い出す。

 ああ、やっぱり僕には甘すぎる!



  ツンデレ骸。子供に懐かれて困る骸も可愛い。









12.綱吉と骸



 がしゃんっ!

 思わず耳を塞ぎたくなるような音が地下に響いた。しかしそれに身を震わすような人間は此処にはいない。なにしろそれを行った人間ともう一人以外は例外なく倒れているのだから、それも仕方がないだろう。その惨劇を作り出した張本人である綱吉は飄々としたもので、絡むコードを解こうと躍起になっている。

「……つな、よ…しくん?」

 久しぶりに触れた外気に咳き込みながら、出した声はほとんど音にはなっていなかった。だが、彼には届いたのだろう。コードを睨みつけていた綱吉は振り返り嬉しそうに名を呼ぶと、面倒臭くなったのかコードを力ずくで引きちぎった。

「なんて、こと、するんですか…」

 骸としては拘束具であり生命維持装置でもあるコードの扱いについて言ったつもりだったのだが、綱吉は違う風に受け取ったらしい。

「だって、こいつら骸に会いたかっただけなのに邪魔するんだもん」

 そう言って子供のように頬を膨らます。いい歳して似合っているのが問題だと骸は思う。そんな理由でぼこぼこにされた復讐者が哀れ過ぎる。

「ば、かじゃないですか、こんな…」

 笑おうとするとひくりと肺が痛んだ。

「馬鹿ってひどいなぁ」

 綱吉はへらりと笑う。そして辺りに出来た水溜りを気にもせずに骸に近づいた。ぴしゃんっと靴に踏みつけられて薬液が跳ねた。骸はもう慣れてしまって分からないようだったが、部屋にはホルマリンのような匂いが漂っていた。

「骸」

 名前を呼ばれて骸は立ち上がろうとするが、長い間使っていなかった手足は上手く動かず、べしゃりと崩れた。それを見て綱吉は少し笑って抱き上げる。骸の身体はびっしょりと濡れていて、少し粘度のある薬液はまるで羊水のように骸の身体を覆っていた。

「濡れます、よ」
「いいよ」

 呆れたように骸が言うのを綱吉は笑った。そんなことはどうでもいいのだ。腕の中の身体は記憶にあるものよりもうんと細く頼りない。

「骸、誕生日おめでとう」

 ぎゅっと骸を抱きしめて綱吉はそう言った。その言葉に骸は目を見開き、眉を下げた。

「……まさか、それを言うために、こんなことしたんですか」
「そうだって言ったら?」

 痛む喉を無視して骸は笑った。その瞳から新たに雫が落ちる。

「ほんと、ばかだ…」
「馬鹿かもなぁ」

 ゆっくりと痩せ細った腕を背中に回した。綱吉もそっと腕の力を強める。もう離れないように。
 互いに見えないその顔は、眉を下げて泣きそうになりながらも、それでもとても幸せそうだった。


 かくして地表を漂っていた霧はようやく大空のもとへ帰ったのだ。



  ラストはやっぱりツナ骸。早く水牢から出してあげてください。


HappyBirthDay!


六道骸