背中に感じる熱と重みにこみ上げてくる感情があった。懐かしいような、初めてのような不思議な感覚。 小さな机の上に置かれた紅茶が湯気を揺らしていた。奈々さんが僕のために用意してくれたものだ。今、僕は日曜の午後を綱吉くんの部屋で共に過ごしている。 「静かですね」 「ああ、うん。今日はランボ達もリボーンも出掛けてるから」 ぱらりと紙がめくられる音だけが響く。その音を聞いて、僕も手の中の小説に視線を戻した。綱吉くんは漫画をパラパラと読んでいる。 外は雨が降っていて、サアサアという雨の音と時折紙のめくられる音だけが部屋を満たしていた。少し肌寒いような気温にくっついている部分の温度が温かかった。 サアサア ぱらり サアサア 心地良い沈黙。 胸をじんわりと締め付けるような、満たされるような感覚がする。例えるなら冬に温かい風呂に入ったような。そうかこれが幸せ。 この感覚を、感情を彼も感じているのだろうか。この僕の幸せをどうしたら伝えられるだろうか。『好き』なんかじゃ表せない。『愛してる』でもまだ足りない。嗚呼、そうか。 「貴方のためなら死んでもいい」 呟いた声はひっそりと響いて消えた。綱吉くんは漫画をいったん床に置くと、自分用のオレンジジュースを取った。そして一口飲んでこう言った。 「どうせなら俺はお前と月を見たいよ」 初めは何を言っているのか分からなかった。今は昼で外は雨で、時間的にも天候的にも月など見ようもない。しかしすぐに彼の指す月が何か気付いた。 「貴方が知っているとは思いませんでした」 「前に国語の時間に先生が話してたんだよ」 「良い先生です」 綱吉くんはコップを置くと再び漫画を捲りだした。僕はそっと目を閉じて未だ見ぬ月を描く。
「月が綺麗ですね」 |