世界の中心で
六道骸が死んだので、俺は探すことにした。 イタリア、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカ、ロシア、中国、オーストラリア。もちろん日本も。 仕事の合間に、ついでに、無理矢理休みを取っては俺は骸を探した。 世界中をまわって思ったことは世界は広いということだった。リボーンが来て、イタリアに渡って俺は世界の広さを知ったけど、まわってみれば世界はさらに驚くほど広かった。そして美しかった。 *** 「もしかしてこれって幼女誘拐になんのかなぁ」 「きゃっ綱吉くんの犯罪者ー」 甲高い声で骸が笑う。こういうのを鈴が鳴るような、ていうのだろうか。もっとも俺はくふふなんて鳴る鈴は嫌だけど。 「うわっリボーンに殺される…」 「くふふ、マフィアのボスが今さら何言ってるんですか」 骸が笑う。ざわり、背中の毛が逆立つような寒気。この感覚に安心するようになったのはいつからだったか。 「しかしロリコンかぁ。前とどっちがマシなんだろ」 「それは男同士じゃないですかぁ?」 「そーかな。うーん、そーかも?男同士は変態って言われても犯罪とは言われないもんなぁ」 「まぁ、裏の世界では同性愛者も幼女趣味も珍しくありませんけどね。ぶっちゃけどっちもどっちですし。どちらも普通の人間から見たら醜悪ですよ」 幼い口から出る辛辣な言葉に俺は笑った。たぶん困ったような笑みだろう。骸といるときよく俺はそんな表情をしているらしい。だからよく勘違いをされた。俺は骸を愛しているというのに。おかしな話だ。 「どうかしました?」 どうして笑われたのか分からないらしく、骸がいぶかしげに俺を見上げた。 「ん、骸は小さくなっても骸なんだなぁって」 「当たり前でしょう。僕はそういうモノなんですから」 色違いの瞳は何処か遠くを見つめている。俺はいつかこの哀しいイキモノを置いていくのだろう。 「今度の生はどうだい?骸」 「…別に普通ですよ。普通で普通で普通です。優しい両親に可愛い一人娘。まるで絵に描いたように一般的なしあわせ家族だ。まったくもって甘すぎる。お人好しばっかりだ。子供はこんな化物なのに。 ・・・・・・まあ、そんな平凡な親でも、さすが僕だけあって生まれ変わってもこの美貌ってわけですよ」 「そう、いいひと達だったんだね。・・・…いいの?俺と来てしまって」 「いいんですよ。確かにここは温かいけれど、僕の幸福は貴方の傍にしかないんです」 「・・・・・・ありがとう。じゃあ、なおさら俺両親に挨拶に行ったほうがいいのかなぁ」 「娘さんを僕にくださいって?驚くでしょうねぇ。小学生の娘に三十路過ぎた男が結婚を申し込んできたら」 骸がくふふと笑う。俺も笑った。 「しかし何か綱吉君は冷静ですよねー。もっとこう、感動の再会って言うかそういうのはないんですか」 「えーそんなことないよ。これでもすごい探したんだよ?それこそ世界中。 えーと、イタリアは当然として、フランスのパリコレも行ったし、イギリスは霧の街だろ?ドイツのソーセージとかは美味しかったなぁ。逆にアメリカは飯不味かったんだよなー。オーロラも見たし、中国でパンダも見た。 あ、お前コアラ触ったことある?子供抱かしてもらったんだけど可愛いんだこれが・・・」 「なに観光してんですか」 「いや、だってせっかくだし」 不機嫌そうに顔を歪ます骸の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。ぼさぼさになった髪を押さえつけて文句を言う骸の頭にそっと手を置く。 「世界中巡るのは楽しかったよ。楽しかったけど、いつだって骸が隣りにいたらいいのにと思っていたよ」 「・・・・・・僕も」 「え?」 「僕もずっとあなたに逢いたかった・・・!本当はすぐでも逢いに行きたかったけど、この姿じゃ足手まといになるだけと思って・・・!」 「例え足手まといでも、俺は骸に傍にいて欲しい。骸が男でも女でも、虫でも鳥でも、人間じゃなくったって俺はきっと骸が分かるよ」 うつむく骸の小さな手をそっと握る。 「骸が好きだよ」 握り返された体温が愛おしい。かつての彼の体温は低くて、この子とは似ても似つかないけれど、同じだと分かる。これは骸だ。ああ、やっと帰ってきた。 「おかえり、骸」 きっと死ぬのは俺が先だろう。俺にはいつだってこの一度きりだ。それでも、いつか分かれる日が来るとしても、どうかそれまで手を繋いで――。 「あー・・・そうだ。綱吉君、とりあえず初潮が来るまで待ってくださいね」 「何の話だよ!?」 「何ってセック・・・」 「わぁぁぁああ!?空気読めよお前!!」 うん、なんかすごい手を離したい。 |
君と手をつなぐ