「おまえ〜ほしいもの〜ある〜?」 突然横から聞こえた声に振り返ると、路地裏に懐かしいものが立っていた。 「おや、ありじごくにんですか。久しぶりですね」 かつての旅では何度か見かけたが、それ以降は姿を見ていなかった。ナム孤島にはいたのかもしれないが近づいてもいないので分からない。彼らに対する不可侵はあの戦いへの協力の礼のような物だ。現行犯でない限り『私は』彼らを捉えないことにしている。漆黒の翼の噂はたまに聞くので元気にしているのだろう。 「ほしいもの〜ある〜?」 「欲しいものですか、そうですねぇ・・・」 とっさにかつて見た背中が浮かぶがすぐに打ち消す。あの子はもう帰ってこない。 「おかね〜たくさんくれたら〜ほしいものやる〜」 アッシュはどうしているのだろうか。帰ってきた『ルーク・フォン・ファブレ』は。数ヶ月前に正式にナタリアと婚約したと報告を受けた。偽姫事件で微妙だったナタリアの立場もこれで安定したことだろう。なにしろ相手は正式な王族で英雄なのだから。 「いいですよ。私が望むものを与えられるというのなら、いくらでも差し上げましょう」 無理なのだ。どんなに願っても縋っても、彼は空に消えてしまった。奇跡は起きない。二度は起きない。彼はもう、帰っては来ないのだ。 「いくらでも〜?じゃあ〜1000万ガルド〜」 「はいはいかまいませんよ〜」 埒外な値段にもどうせ無理なのだからと軽く了承する。 「おまえ〜なにが〜ほしい〜?」 「そうですね、どうかあの子を、ルークを」 それでも声にはどこか本気の切望が滲んだ。欲しいのだ。ほしいほしいほしい。ただ、あいたい。 「わかった〜」 「え」 強い強い光に一瞬目の前がまっしろになり、そのあと反動で暗くなる。視界が回復し、辺りを確認しようとしたら、子供がいた。 赤い長髪、緑色の目、腰ほどの背丈の子供がこちらを見上げている。 ・・・・・・ルーク? 「1000万ガルドぉ〜」 ありじごくにんがこちらの混乱を欠片も気にせずに手を伸ばしてくる。仔ルーク(?) は一言も発することがないまま、ぼへーっと見上げてきている。ああ、もういったいなんなんだ。訳が分からなくなった頭でそれでも言うべき言葉を考える。 まあとりあえず 「・・・・・・ローンは効きますか」 幼い手を握り、貯蓄額に思いを馳せた。 |