「ジェイドー!羽根突きやろうぜ!」 ノックもおざなりに部屋に入ると、一人本を読んでいたジェイドに飛びつく。少しふらついただけで踏みとどまったジェイドは俺を見て呆れたように笑った。 「羽根突きならガイとやればいいでしょう。年寄りを誘うもんじゃありませんよ」 ギリギリ掴まれて、腰の辺りにくっ付いていた頭が引き離される。ちょっ痛い痛い! 「だってガイのやつ俺相手だと手抜くんだもんよ」 慌てて後ろに下がるとあっさり手は離された。痛みがあった部分を指で軽く揉む。 「手加減ですか、らしいといえばらしいですねぇ」 そう言うと俺の顔をじっと見てくる。なんだろう?何か付いているのかと思い顔に触れてみるが何もない。なんなんだろう。顔に何か付いているのは俺じゃなくてガイのはずだが。 「もうガイの顔真っ黒で描くとこねぇよ」 「ああ、もうやった後でしたか」 ジェイドがやけに晴れ晴れとした顔で笑う。きれいだ。きれいなんだけど何かめちゃくちゃ怖い。 「まあ、いいでしょう。老骨に鞭打ってやらせていただきますよ」 「よっしゃ!」 誘っておいてなんだけど、まさかジェイドが羽根突きに付き合ってくれるとは思わなかった。正直とても嬉しい。 「覚悟してろよジェイド!その額に肉って描いてやる!」 「おや?私に勝てると?」 部屋から出ると美味しそうな匂いがした。この分だとアニスとティアが作っているお雑煮には期待できそうだ。ナタリアを出掛けさせたのは正解だった。ナタリアは今アッシュへ年賀状を渡しに行っている。雑煮を作ろうと張り切っているナタリアをガイと二人で手渡したらアッシュが喜ぶと説得したのだ。 「あら、お出かけですか?」 廊下でノエルとすれ違う。腕の中にあるのは餅だ。ギンジと二人で突いたというそれは柔らかそうだ。今から雑煮に入れるらしい。 「うん、羽根突きするんだ」 そう言うとノエルは少し驚いた顔をしてジェイドを見る。うんうん、やっぱ驚くよな普通。でもノエルはすぐに微笑むと、風邪を引かないようにとマフラーを貸してくれた。 外に出るとやっぱり寒かった。でもこれから動くからたぶん平気だろう。 「いくぞ!」 ジェイドに向けて羽を打ち上げる。鮮やかな羽がきらりと光った。 ***** ・・・ク。・・・−ク。・・・ルーク」 「ルーク」 ガイが俺を起こす声で目を覚ます。もう使用人ではないというのに癖が抜けないのか、ガイはよく俺を起こしに来る。 「おはよ、ガイ」 「ああ、おはよう。何か良い夢でも見ていたのか?なんか幸せそうな顔してたぜ」 チキンいっぱいの夢でも見たか、とガイが笑う。俺はさっきまでの夢を思い出そうとしてやめた。枕元にはガイから借りた、ホドの風習についての本がある。 「別にただの夢だよ」 そう、ただの夢だ。正夢になど決してならない。ありえない夢。 外ではチュンチュンと小鳥が鳴いている。窓から朝日を受けて輝くエルドラントが見えた。 |