ずっとこのままでいたいと思っていると知ったらあなたはどんな顔をするだろうか。 「おい、灰原帰ろうぜ」 「ほら哀ちゃん行こう!」 腕を引っ張られて急いでランドセルを背負う。この大きさにももう慣れてしまった。少し先を歩く彼もすっかり馴染んでいるように見えるのは気のせいではないだろう。 「なんだか機嫌良さそうね」 「まあな、今日発売日なんだよ」 「また、推理小説?」 「悪いかよ?」 「いいえ、あなたらしいわ」 そう肩を竦めると彼は不満そうにこちらを睨んでくる。それに気付かない振りをして足を進める。この小さな足では帰る道のりはそれなりに長い。 「ねぇねぇコナン君!通りの向こうの公園に新しい遊具が出来たんだって!見に行ってみない?」 「悪りい、俺今日は用事あるんだわ」 そう彼は悪びれもせず片手をあげて断った。用事ってどうせ本を読むだけでしょうに。 「じゃあ、灰原さん来ませんか?」 「・・・私も今日は遠慮しておくわ」 断ったのはなんとなく、だ。別に理由なんて無い。 「そっかぁ、じゃあ明日にしよっか」 「そうだなー」 そんな話をしながらわいわいとみんなで歩く。こんな時間が嫌いではない。昔はどうだっただろうか。今の外見に見合った年齢だった頃。こんな風に友達と帰るなんてこと行っていただろうか。その頃の記憶はあまりない。 ずっとこんな風にいられればいいのに。 薬は出来ず、彼も私もこのまま生きていく。この子達と一緒に少しずつ成長して、小学校を卒業して、中学生になって。そして元の年齢に達したとき私たちはどうなっているだろう。 彼女はどうするのだろう。 「あれ?コナン君」 「あ!蘭姉ちゃん!園子姉ちゃん!どうしたのこんなところで?」 噂をすれば影ということだろうか。現れた彼女に目を細める。いつだって彼女は私には眩しく感じる。 「ちょっとこれから園子と買い物なの。事務所にはお父さんがいるから。おやつは冷蔵庫のプリンを食べてね」 「わーいプリンだー」 彼の幼く作った声が耳に響く。そしてまた思うのだ。 このままでいられればいいのに。 「じゃあ、みんなもまたね」 こちらへ歩いてくる彼女を見つめる。彼女はいつまで彼を思い続けるのだろう。一年?二年?・・・十年?彼女に他に好きな人が出来たら彼は泣くだろうか。仕方がないことだと諦めるだろうか。それとも彼女は他の人を思うことなどなく、ずっと彼一人を思い続けるのだろうか。まるでドラマのヒロインのように。 私には分からなかった。彼女は眩しすぎて。彼女とは違いすぎて。けれどそうあって欲しいという感情もあった。真っ当な人間が真っ当に幸せになる、そんな世界であってほしいとそう願う気持ちもあった。世界はそうあるべきだ。 彼女が近づく。 「ごめんなさい」 擦れ違いざまそう呟いた。数歩後ろで彼女が振り向くのを感じた。 「哀ちゃ・・・」 「ちょっと蘭!はやくはやく!」 友人に引っ張られて彼女の姿が見えなくなったところで息を吐いた。どうやら無意識のうちに緊張していたらしい。ぎゅっとポケットの中身を握り締める。 「おい、灰原行くぞ」 彼の呼ぶ声に従い、そちらへ歩いていく。早く帰って一刻も早く新刊を読みたいらしい。その子供らしい姿に再び工藤新一について考えた。彼はどんな人物だったのだろう。小さくなる前の彼は。 もう一度ポッケの中身を握りしめた。手の中には小さなカプセルの入った小瓶がある。先日完成したものだ。マウスによる実験は成功した。人間への投与はまだだった。しかし彼に告げない理由はそんなものではない。 「ごめんなさい」 もう一度小声であやまる。魔法使いになるにはまだ時間が欲しかった。 もう少しだけでいいからどうかこのままで。 |