「ねぇ、骸。知ってる?魂の重さって21gなんだってさ」 こちらに背を向けたまま告げられた言葉に耳を向ける。返事はしない。望まれてないから。 「21gってさ、どうなんだろう。重いのかな、軽いのかな」 骸はその21gという数値がきちんとした実験で取られたものではなく、信用に値するものではないと知っていたがそれを綱吉に告げるのは躊躇われた。相変わらず背中は向けられたまま。綱吉はただ見下ろしている。 「人の命は重いのかな、軽いのかな」 骸はたぶんその答えを知っていた。魂の重さをたぶん誰よりも知っていた。魂に重さなど無い。人の命に価値など無い。全ては生まれ、消え、廻るだけだ。それでもそれを告げることはできなかった。 「魂に重さがあればいい。21gが重ければいい。ずっとずっと重ければいい。殺すたびに積み重なって俺に圧し掛かればいい。俺が動けなくなるほどに、潰されてしまうほどに重ければいい」 そう呟くと綱吉は空を見上げた。その視線を骸も追う。路地に挟まれた狭い空は青い青い色をしていた。大空の色だ。 「ねぇ、骸。骸は21gって重いと思う?」 いつの間にか綱吉がこちらを見ていた。その表情は穏やかだ。後ろに横たわる男とは大違いだ。それを悲しく感じるのは骸が沢田綱吉を忘れられていないからだろうか。 「・・・少なくともその銃弾よりは軽いと思いますよ」 黒い銃身を見つめ搾り出すように骸は答えた。その答えに綱吉は眉を上げると、右手の銃を慣れた手つきで胸ポケットにしまう。 「ははっそうだな。じゃあ帰ろうか、骸」 そしてボンゴレ10代目は笑った。弾丸を持っているはずのその足取りはどこまでも軽い。 骸の嘆きはどこにも届かなかった。この世界のいったい何人が気付いているだろう。 ああ、沢田綱吉は潰されてしまった。 |