「くふふ、大丈夫ですか?」 そう言って差し伸ばされた手を俺は今でも覚えている。お前の存在に救われているとそう言ったら、お前はやっぱり笑うかな? ともだちごっこ 骸とはじめて会ったのは中学に入ったばかりの頃だ。小学校を卒業して、中学に入ったら何かが変わるかもと期待していたけど、相変わらず俺は駄目ツナのままで。彼女どころか友達すら出来ずに一人家に帰っていた。いつも通りの駄目駄目ライフ。違ったのは道路にバナナが落ちていたことと、そこに六道骸がいたこと。 我ながら呆れる。バナナで転ぶ人間なんて現実には見たことなかったし、見ることなんてないと思ってた。まさかそれを自分がやるなんて。 「うわぁっ!?」 足を取られてバランスを崩したと思ったときにはもう遅い。地面はすぐ目の前。迫る衝撃に目をつぶる。 そして俺は転んだ。 「いたたたた・・・」 痛みとそれ以上の情けなさで俺は地面に突っ伏した。ああ、なんて駄目っぷり!そんな時だった骸が俺に声をかけてくれたのは。 「くふ、くははっ」 オブラートに包めば特徴的、はっきり言えば変な笑い声に俺は顔を上げた。そこに居たのは制服姿の整った顔の男。実際のところは俺より一つ上なだけだったけど、当時の俺は黒曜中の制服も知らなかったから、もっと年上の高校生位に見えた。 「あの・・・?」 男は耐え切れないとでも言うように腹を抱えて笑っていた。そのたびに可笑しな笑い声が平日の誰もいない住宅街に響く。 「ああ、すいません。バナナで転ぶ人間なんて初めて見たものですから」 眉を下げて申し訳なさそうにしながら、その表情は笑っている。そしてそのまま俺に手を伸ばした。 「くふふ。大丈夫ですか?」 差し伸ばされた手を俺は手に取ることもせずじっと見ていた。長い指だなぁとかそんなことを思いながら。別に手を取ることが嫌だったからでも、潔癖症だったからでもない。転ぶのはよくあることでもその後に手を差し伸べられることなんて久しぶりだったから、どうすればいいのか分からなかったのだ。 「えっと、どうしました?どこか痛むんですか?」 そう言われて俺ははっとして手を掴んだ。俺よりも体温の低い、冷たい手だった。そして久しぶりに繋いだ他人の手にドキドキした。 「あ・・・、ありがとうございます」 「どういたしまして」 会話を交わす間も手は繋いだままだ。こちらが手を貸してもらったのだから放せとは言いづらい。どこかひんやりとした細い手は繊細そうだ。そんな手の平にタコがあることに驚いた。ペンだことも違う。何かスポーツでもしているのだろうか。 「あの・・・」 「ああ、失礼」 話しかけようとしたら、彼の方から手を放してくれた。そのあっけなさがどこか寂しく感じたのは久しぶりに人と触れ合ったからだろうか。 「いえ、あの、スポーツでもされているんですか」 「え?」 「えっと、あの、タコがあったから・・・」 そう言うと彼は少し考え込むような顔をした。何か変なことでも聞いただろうか。それとも俺なんかに話しかけられてやっぱり迷惑だったんだろうか。そして彼は頷いて言った。 「槍術を少しやっているんですよ」 「そう・・・?」 「槍術。槍です」 「やりですか・・・。珍しいですね」 「そうかもしれませんね。でも慣れれば案外扱えるものですよ」 「へえ、そうなんだ」 久しぶりの悪意のない、馬鹿にされてもいない、母さん以外の人との会話は楽しかった。まるで友達と話しているみたいで。 でも違う。この人は通りかかっただけだ。俺の友達なんかじゃない。そう気付いてしまえば胸の奥にもやもやしたものが溜まる。次第に俺は俯いてしまった。 「そうだ。これから君、予定はありますか?」 「え、ないですけど・・・」 「よかったら、この辺りを案内してもらえませんか?最近、黒曜に来たんですが迷ってしまって」 「あ、はい!俺で良かったら・・・」 「お願いします。ああ、そうそう。僕は六道骸といいます」 「あ、沢田綱吉です!」 「それじゃあ行きましょうか、綱吉君」 そして俺は骸に会った。 その時俺は骸のことをいい人そうだなぁ、友達になれたらいいなぁなんて思っていた。いい人そうなんて俺のとんだ勘違いで、骸の性格を俺はのちに知る。まあ、それでも友達なんだから仕方がない。 |