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「今日は何の日〜♪くっふ〜!!」

 ノックの音がしたのでドアを開けると、とたんに骸が飛びついてきた。ああ、そういやノックの音がやけに高かった。

「・・・なに、骸」

 痛い+眠い=迷惑。
 その公式をあからさまに顔に出しながら綱吉は骸を押しのける。一体今何時だと思っているんだ。こっちとら修行で疲れているというのに。雲雀さん(大人)のしごきは半端なかった。ラルもなんかはりきってたし。マジで疲れた。
 一方、押しのけられた骸はいやに高いテンションのままソファに乗った。

「くふふっまさか忘れたんですか?今日は君の誕生日じゃないですか!誕生日おめでとう、綱吉君!もちろん僕が一番最初に祝いましたよね?くふふっいやあ、まさかまた綱吉君の十代の誕生日を祝えるなんて思いもしませんでしたよ。本当は凪も来たがったんですけどね。あの子は修行で疲れていますし、こんな時間ですから先に寝かせました。まあ、綱吉君と二人きりになりたかったっていうのが本音なんですけど。くふ。あれ?どうしました綱吉君、頭なんて押さえて」

 言いたいことが色々あった。うるさいとか今何時だと思ってんだとか俺もお前に祝われるなんて思ってなかったとか凪の疲れは考慮しても俺のはしてくれないのかとかお前時間分かってんじゃねえかとかまさか凪と一緒の部屋で寝てんのかとかきもいとかうざいとかまあ色々あった。
でも色々ありすぎたのでとりあえず

「・・・ありがと」
「くふっどういたしまして」

 ああ、やっぱりテンションたけぇこいつ。夜行性だからだろうか。

「それで用ってそれだけ?じゃあもう寝たいんだけど」
「おや、積極的ですねえ。もう寝たいなんて。もちろん返事はイエスですよ!」
「ちが!てか普通に無理だろ!?」
「いや、頑張ればそう無理でも・・・」
「おやすみ」

 変態の言うことなんて聞かないに限る。骸を掴み、ムリヤリ部屋から出すことにした。

「ちょっちょっと待ってください!プレゼントがあるんですよ!」

 そう言われて俺は足を止め、骸をまじまじと見つめた。どう見ても何か持っているようには見えない。

「プレゼントなんてどこにあんだよ」
「くふふ。綱吉君の目の前に」

 綱吉の前にあるのは骸とドアだけだ。

「・・・なんか去年もそれじゃなかったっけ」

 去年の誕生日に凪に憑いて骸が来たことを思い出す。あれはなかった。セーラー服はない。あんなものを押し付けられても困るだけだ。せめて凪に言われたらドキドキだろうけど嬉しかっただろうに。プレゼントは私って・・・。

「僕にとっては十年前ですよ、それ。いや、それでもいいんですけどね。今年は違いますよ。プレゼントはこの仔、ムクロウです」

 そう言うと骸はその翼をばさりと広げた。

「ムクロウ?って結局骸じゃん」
「違いますよ。僕としてもずっとこの仔に憑いているわけにもいきませんからね。この仔は便利ですよぉ。雨のボックスから生まれたからある程度水を操れますし、契約しているので僕の器にもなれます。ボックスだから餌もいりませんよ」

 骸の両の目が光る。赤と青。フクロウになっても骸は骸だった。

「でも、そのこ雨のボックスだろ?炎とかどうすんのさ」
「君は大空でしょう。だったらどのボックスでも平気なはずですよ。それに裏技を使えば他の炎でも使えないことはないんですよ。現に僕は霧ですし」

 骸が身をよじって掴まれた状態から飛び、腕に降りる。水で出来た羽が舞って溶けた。

「ふうん。でもほんとにこの仔貰っていいの?」
「君はペットを持っていないでしょう。アルコバレーノも跳ね馬もペットを持っていたというのに。この仔をペットにすればいい」

 そっと骸の背中を撫でてみる。冷たくて気持ち良かった。うん、いいかもしれない。

「ありがと」
「どういたしまして。ボックスは凪が持っていますから、明日の朝にでも受け取ってください」

 そう言うと骸はソファの上へと飛んだ。どうやらここに居座る気らしい。

「おい、俺寝るんだから。帰れよ」
「帰りますよ。もうそろそろ離れないといけませんから」

 俺は骸の部屋に帰れという意味で言ったのに、離れるとはどういうことだろう。そういえばこの骸は十年後の骸なのに俺はその姿を見ていない。骸の本体はどこにいるんだろう。

「骸、お前いま何処にいるの?」

 そう聞くと骸が微笑んだ。フクロウの表情なんて分かんないけど、笑った気がした。

「復讐者の牢獄に今もいますよ」
「水の中に・・・?」
「ええ、だからこそこの仔とも波長があったのかもしれませんね」

 十年前からずっと骸はあそこにいるんだろうか。暗くて寒い水の中に。未来の俺は何をやっているんだろう。十年も骸をあんなところに放置して。

「出られないの・・・?」

 俺は何を言っているんだろう。出られないからこそそこにいるに決まっているのに。出られたらあんなところいるわけがない。

「出れますよ」

え?

「出れます。十年前ならともかく、今の僕なら凪や他の契約者を使えば出ることは可能です」
「えぇ!?じゃあなんで出ないんだよ!!」
「約束してくれましたから。綱吉君が必ず此処から出してくれると約束をしてくれたから。だから僕は待っているんです」

 そう言うと骸は幸せそうに笑った。フクロウだろうが関係なくそれが分かった。
 この十年の間に俺と骸の間に何があったんだろうか。俺では骸にこんな表情をさせられない。俺はますます未来の自分が嫌いになった。骸を待たせているのに。お前なら骸を幸せに出来るのに。一体何をやっているんだ。ああ、なんだかイライラする。せっかく今日は俺の誕生日なのになんでこんなイライラしなくちゃいけないんだ。

「六道骸!!」
「はい!?」

 いきなりのフルネームに骸の声が裏返った。

「俺は、元の時代に戻ったらすぐに、お前を水槽から出すから!未来の俺みたいにお前を待たせたりしない!」

 そう宣言すると、骸は目をぱちぱちさせた。俺の言いたいことをこいつたぶん理解してない。もっとも自分でも何を言いたいのか分かってないけど。ああ、そうだ。きっと俺が言いたいのは

「来年の誕生日はちゃんと生身のお前が祝え!」

 返事は!?

「・・・は、はい」

 その言葉に満足すると、俺はベットに転がる。いい加減眠気が限界だった。

「おやすみ、骸」
「あ、はい。おやすみなさい・・・?」



 ああ、良い誕生日になりそうだ。



HAPPY BIRTHDAY
My Darlin'!!




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