「君、きっと早死にしますよ」 わざとらしく溜め息を吐くと彼は困ったように笑った。嫌味でやっているのだから困ってくれなくては意味が無い。反省の色の薄さに今度は本気の溜め息が出る。 だいたい今回の戦闘に彼が出て行く必要なんてこれっぽっちもなかったのだ。多少不利な状況であったとはいえ、骸はそれを覆すつもりだったしそれだけの実力はあると自負している。そもそも組織の頂点がそんな簡単に出てくるのが可笑しいのだ。ボスならボスらしく屋敷の中で護られてればいいものを。なんのための守護者だ。 この説教ももう何度目になるだろう。何度言ってもへらりと笑ってかわされてしまう。分かっている。綱吉が戦闘に出るのはいつもこちらが不利な状況のときだけだ。優勢ならば手を出すことは滅多に無い。護られているのだと思う。それが嬉しいと同時に悔しい。 信用されていないのだろうか。 そう考えてしまって思わず目を伏せる。 「大丈夫。骸がしあわせになるまでは死なないから」 沈んだ骸の様子に罪悪感を覚えたのかいつものようにへらりと綱吉が笑って言った。 「約束ですよ?」 ちらりと疑わしげに目を向けると、手を引いて小指を絡ませる。まるで子供に対するような扱いに思わず苦笑がこぼれる。長年の保父さん暦が垣間見えるようで微笑ましい。 「うん。約束」 安心させるように言って綱吉が指をきる。そして再びへらりと締まりのない笑顔を向けた。それを見て骸はそっと目をつぶる。 そう交わした指が意味の無いものということを骸だけが知っていた。 この約束に初めから意味など無い。 前提からすでに終わってしまっているのだから。 しあわせなのだ。 ただ綱吉が側にいてくれているだけで。こんなにも満たされている。 君が生きてくれるのなら不幸でもいい、そう思う。 君が生きているだけで幸せだと、そう思う。 矛盾した約束。 それでも繋いだ小指を抱えて骸は笑った。それはまるで祈りのように。 ***** 「なあ、骸。お前しあわせだったか?」 冷たい石に触れてそう男が呟いた。 その答えは誰も知らない。六道骸はその生涯、幸せを口にすることはなかったから。決して口にすることはなかったから。 「俺はお前といれてしあわせだったよ」 薄茶の髪が俯いた男の表情を隠す。その手の中には指輪が一つ。持ち主を失った指輪が一つ握り締められていた。 (しあわせでしたよ) その声を聞く者は誰も居なかったけれど。 (貴方と逢えて倖せでした) 祈りは届いただろうか。 |
幸福な亡骸