骸が机の上のチョコレートを消費していくのを、俺はどこか穏やかな気持ちで眺めていた。 一定のペースで伸ばされる手はひたすらに薄い唇と紙の箱を往復している。チョコレートはノートほどの大きさの箱に敷き詰められていたのだが、既に半分は骸の腹に消えた。 父さんからの土産だったのだが、この調子ではランボたちが食べる前になくなってしまうだろう。でも、まぁいいかとも思う。どうせ父さんがまた送ってくるだろう。だってあの人は俺の好物がチョコレートなのだと勘違いしている。 「ねぇ、骸。おいし?」 「はい」 無表情で骸はチョコレートを食べ続けている。一口サイズの小さなチョコを口に放り込むのではなく、指で摘んで齧るように味わう。その動作はどこかハムスターにも似ている。 なんだか小動物を餌付けしている気分だ。 そんな風に思いもするけれど、指に付いたチョコを舐め取る姿を見ると、そうでもないかとも思う。だってこんなエロいハムスターなどいない。 骸がチョコレートを黙々と食べる姿を眺めるのは俺の趣味だけど、赤い舌がチラつく度に実は少し落ち着かない気分にもなる。それでも目を逸らさない理由は、まぁ察して欲しい。 指の腹を舐め終わると、再び次のチョコレートに手を伸ばす。その繰り返しだ。 時々骸が動きを止めて、ほんの少し口角を上げる。 ああ、それ気に入ったのか。テレビを見るふりをしながら骸に見えないように、手元のカタログのそのチョコレートにチェックを入れる。 また今夜辺り父さんに電話しよう。 最近ようやく気付いたが、あの人は俺にべらぼうに甘い。長らく家に居なかった贖罪のつもりなのかはしれないが、俺がさりげなく欲しいものを口にすると翌週にはそれが送られてくる。物で釣るなんてサイテーと思う気持ちもあるが、あの人のくれる高級なチョコレートは好きだった。そしてそれは骸の胃袋に収納されていく。 「……食べますか」 「へ?」 「チョコレート、貴方全然食べていないでしょう?」 いつの間にか箱いっぱいのチョコレートは残り一つになっていた。なんだか箱をじっと見ているなと思ったら、そういうことか。ああ、もしかして先程の妙な沈黙は俺に最後の一個を譲るか否かの葛藤か? 「うん、じゃあ貰う」 正直、骸が食べているのを見るだけで十分満足していた。それにこのチョコレートとしても骸に食べさせるためのもので、俺が自分で食べようとは思っていなかった。でもまぁ、せっかくなので貰っておこう。 「ぁ」 チョコレートを摘み上げると、名残惜しそうに骸が小さく声をあげた。ああ、もう可愛いなぁ!湧き出でる感情に静かに身を震わせる。 「いただきます」 躊躇無く口にチョコを放り込んで、骸の手首を掴んだ。一時期は骨と皮だけのように細くなっていたそこに少し肉が付いたことを嬉しく思う。でも標準に比べれば骸はまだまだ細い。 その細い腕を引っ張って俺は骸にチョコレート味のキスをした。 やっぱり今度は肉を食べさせよう、そんなことを思いながら。 |