プリン2個で語る愛

「ナツ、大事な話があります」
ある春の日、骸が真面目な顔であたしを呼んだ。
「なあに?」
とことこと近寄ると骸の前の床を指差された。骸は正座している。あたしもここに座れということだろう。
「ナツ、君に話さなければならないことがあります」
骸の声はどこまでも真剣で普段の浮ついた様子はまるでない。こうしてみると骸の顔がとても整っていることが分かる。
「なに?いきなり・・・」
普段は、あたしの前では骸は明るいし機嫌が良かろうと悪かろうとそれを表情に出している。だからこんな真顔の骸はまるでよく出来た石像のようで不気味だった。
「いままで黙っていたことを君は責めるかもしれない。僕を恨むことになるかもしれない。それは仕方がないことです」
微かに眉尻が下がり、骸の声に悲しみのようなものが滲む。
「む、くろ・・・?」
思わず声が震える。骸は自信家で、なによりあたしを良く知っている。人でなしでも変態でもあたしが骸を大好きなことを良く知っているはずだ。その骸がこんな風に言うなんて。
聞きたくない。思わずそう思ってしまう。
聞かないことで今のままで居られるなら、本当のことなんていらない。
「あ、」
「今までナツ、君を綱吉さんとハルという女性の子だと教えましたが実は違うんです」
止めようとしたあたしの声を遮るように骸が告げた。
違う?
じゃあ、あたしは誰?
「実は君は僕の娘なんです」
え?
あたしが、骸の、むすめ?
確かに骸は他人の子供を育てるような人間じゃないけど。いや、じゃあなんで嘘つくのさ。ていうか相手はだれ。ハルさん?え、それって浮気?じゃあ綱吉さんは?
・・・・・・骸があたしの父親って名乗らなかったのは、あたしなんていらないから?
色んなことが頭をぐるぐるまわって真っ白になりそうだ。
ぐるぐる
ぐるぐるぐる
「実は、君は僕と綱吉さんの子なんです!!」
ばばーんと骸が両手を広げる。

骸と綱吉さんの子?
あれ?それってどっちがあたし産んだんだろ?
って、え?
チクチクポーン
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理だぁあああああ!!」
思わずあたしが叫ぶ。いや、なんだそれ!
「ナイスツッコミです!ナツ!」
満面の笑みで骸は親指を立てている。なんだその笑顔。さっきの真剣な顔はどこいった。かむばっく石像。
「クフ、さすが綱吉君の娘です。あとはタイムラグをなくせば完璧ですよ」
くふくふ笑いながら一人楽しそうな骸にだんだん腹が立ってきた。つまりは全部嘘だったのだ。そういえば今日は4月1日、一般的にはエイプリルフールだ。
「骸の・・・」
ぽつりと呟く。骸はようやくあたしの雰囲気に気付いたのかきょとんとしている。それでも手はまだ親指がたったまま。それにさらにイラっとした。大体いい歳してこんな嘘つくのも、そんなリアクションするのもどうなんだ。大人気ない。
「・・・・・・えと、ナツ?もしかして怒ってます?」
そろそろと骸が窺う。そんなことをするなら初めからこんなことしなければいいのだ。
「骸のバカ!アホ!おたんこなす!餅に包まれて食べられてしまえ!」
一息にそう言うとあたしは部屋を飛び出した。背後で骸が「餅!?」とか叫んでいるが知るもんか。
自分の部屋に飛び込んで、ドアにもたれ息を吐く。
「むくろのばか」
それでも嘘でよかったと、このまま骸と居られると、こんなにも安堵しているあたしが本当のバカなことぐらい分かっているのだ。
「あの、ナツ。その、すいませんでした」
だから、控えめなノックと共にかけられたその言葉にあたしは泣きそうになりながら言うのだ。
「プリン2個で許してあげる!」

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