ふと顔をあげた拍子に白い肌の上に走る細い線が目に入った。 「骸、ほっぺたどうしたの?」 「……いい歳した男がほっぺたとか言わないでください」 「えぇーいいじゃんか。かわいいだろ、ほっぺた。っていうかほっぺたって言う俺!さぁ存分に萌えるがいいっ!」 「誰が萌えるか!」 よし、良いツッコミだ。骸は最初は明らかにボケだと思ったけど案外ツッコミの性質もある。つまり両刀。ああなんて素晴らしい!ツッコミが極端に少ないこの業界では大事な大事な人材だ。おかげで俺もこうしてボケられる。 「で、これは?」 顔を近づけて骸の薄い頬を撫でる。女性が嫉妬するほど滑らかな肌だが、一カ所微かに引っかかるところがある。 「一昨日の抗争のときにやったんです。別にかすり傷ですよ」 ああ、あれ。でもあの抗争は大して大きなものでもなかった。特別強い相手が居たとも聞いてない。そんな中で骸がかすり傷とはいえ傷を負ったということは、たぶん骸がうっかりしていたんだろう。なんだか今も気まずげに目を逸らしているし。 「ふぅん」 「……なんですか」 俺が骸の、主に頬の傷跡を見ながらそう言うと、骸は居心地悪そうに身じろぎした。 「べっつにー」 「なんですか。言いたいことがあるなら、はっきり言えばいいでしょう!」 それでも見つめ続けていると、骸が怒鳴った。あ、逆切れだー。まぁ怖くないから関係ないけどー。 俺は怒っている骸を見つめる。頭のてっぺん(別名ナッポーの房)から首の付け根まで流し見て、そして再び頬の傷に目を向ける。 骸は異様に傷の治りが早いから、こんなかすり傷きっと明日にはほとんど見えなくなってしまっているだろう。いつもいくら痕付けても次の夜には消えちゃっているし。 ああ、でも。それでも。 「気に食わないなぁ」 「はい?」 傷は男の勲章と言うが、せっかくの綺麗な顔に傷が付くのはひどくもったいない。というか不愉快だ。 「ねぇ、骸。俺はお前が好きだよ」 「綱吉くん……っ」 骸の手を掴んでささやくようにそう告げると、骸の左右の瞳が微かに震えた。 「僕も……」 「具体的にはお前の顔が大好きだ」 「ってええっ!?」 俺がさらに言葉を付け加えると、骸は恥ずかしそうに目を逸らしてそう言った。『僕も』って、僕も自分の顔が大好きですってこと?いやーん骸ってばナルシストー。 「ちょっと綱吉君!?」 「と、いうことで。もし今後顔に傷なんて付けてきたら殴るから」 なんだかうるさい骸の頬を両手で押さえつけ、にっこり笑って一発宣言。関白宣言? 「覚悟しとけ?」 照れ隠しにテヘっと笑って、ついでとばかりに鼻の頭にちゅっと口づけ。 「……あの、綱吉君」 「んー?」 俺の手の中に収まった骸の顔は赤いやら青いやら。実に微妙な色合いと表情をしている。器用だなぁ。それでも整っているものは整っているから、美形って得だ。 「もちろん、殴るのは相手の方ですよね?」 おそるおそる尋ねる骸の言葉に、俺は思わずパチパチと瞬きをする。そんなの。 「お前を、に決まっているじゃん」 だって相手を殴ったりしたらもろ八つ当たりじゃないか。青みが増した骸の顔に、俺は自分の言葉が足りなかったことに思い至った。 「あ、もちろんボディーだから!」 これでモーマンタイとばかりにサムズアップして付け加えた俺とは裏腹に、骸の目は絶望に沈んだ。え、なんで? 頭のてっぺんから首の付け根まで その後、 「すいませんルッスーリア治療お願いします!!」 「あら骸ちゃん最近多いわねー。ってまたかすり傷じゃないの!こんくらい男なら舐めて治しなさい!」 「これからかすり傷じゃ済まなくなるんですよ!(泣)」 みたいなことがあったとかなかったとか。俺知ーらない。 |