綱吉は雲雀が好きだ。 骸のことは恋人として好きだが、雲雀のことは人間として愛している。いや、むしろ人間を含めた全ての生物のなかで一番雲雀が好きだ。 綱吉が彼を思い描くときに一番に浮かぶのは、いつだって凛とした背中だ。肩にかけた学ランがはためく背中。 それは一種の刷り込みのように、ダメツナ時代に憧れた背中を綱吉は今でも追っている。 強いところが好きだ。 自分勝手なところが好きだ。 我侭なところが好きだ。 変わらないところが好きだ。 もちろん、可愛いところだって大好きだ。 骸と違って抱きしめたいとかキスしたいとかは思わないけど、されても恐らく嫌悪はしないだろう。 だから、別にいいかなと思ったのだ。 「俺、雲雀さんが好きです」 応接室に押しかけた俺を、雲雀さんは追い出さなかったけれど、もてなすこともしなかった。彼の手には紅茶のカップがあって、俺の手にはない。それが答えだ。骸が美味しいって言ってたから飲んでみたかったんだけどな。……まぁ、別にいいけど。どうせ砂糖入れないと飲めないし。 雲雀さんは俺の言葉に紅茶を飲むのを止めて、じっと俺の顔を見つめた。 「うん、知ってる」 俺の目に恋情などがないことを確認したのだろう。淡々とした声だった。その様子に意を決して俺は言葉を続ける。 「雲雀さんは骸のことが好きなんですよね?」 その瞬間、放たれた怒気に体が震えた。目に見えて機嫌を悪くした漆黒の瞳が俺を見据える。 「だったらなんだっていうの」 骸に愛されている君がなんでそんなこと言うの。そんな副音声が聞こえた気がした。ああ、超直感って便利。 「ねぇ、雲雀さん。俺は骸が好きです」 「知ってる。付き合っているんでしょ」 ぶすりと答える様子が可愛らしい。こんなこと思っていることがばれたら噛み殺されるだろうか。 「そんでもって恋愛的な意味じゃないけど、雲雀さんが好きです」 「さっき聞いた」 俺が何を言いたいのか分からないからだろう。イライラした様子で足が組みかえられる。 「だからね、雲雀さん。俺、雲雀さんとだったら骸をはんぶんこしてもいいかなって思うんです」 「は?」 「骸は俺と雲雀さんのもので、俺は骸と雲雀さんのもので、雲雀さんは俺と骸のもの。ほら、なんかいいかんじな気がしません?」 「ちょっ沢田?何言って…」 なぜか焦りだした雲雀さんが可笑しくて俺は笑った。 だって俺は知っている。 雲雀さんが骸を好きなこと。案外俺のことも気に入ってくれていること。恋愛じゃないけど骸が雲雀さんを好きなこと。 そして、雲雀さんが骸を想って泣いただろうこと。 だったらいいじゃないか。普通じゃなくたって。好きなものに囲まれた世界はきっと幸せだ。なら、わざわざ絶望する必要なんてない。全部全部掴んでしまえ。 「こうなったら、さんにんでしあわせになっちゃいましょうよ」 ちなみに将来的には三人川の字で眠るのが夢です。 そう笑って言った俺に数時間後、砂糖とミルク入りの紅茶が振舞われた。 |