意気地あり!
意気地あり!
六道骸はツンデレである。 おそらく本人以外は否定しないはずだ。 ただ、俺としてはツンデレと言うには少しデレが多いと思う。いや本人はツンツンしているつもりなのかもしれないが、あんな可愛い顔をしてそうされたところでこちらはでれるばかりだ。真っ赤な顔をして「君の為なんかじゃありませんから!」って、それ何てエロゲ?いや、エロゲなんてやったことないけどさ。 今だってそうだ。 後ろにまわされた骸の手には遊園地のチケット。俺の位置からはそれは見えないけれど、俺はそれがあることを確かに知っている。 クロームから「遊園地のチケットを貰ったんだけど、私こういうの苦手だから、骸様が使ってください」なんて渡されたそれを持って骸は俺の前にいる。 何で知っているかといえば、クローム本人から電話で知らされたからだ。 チケットは二枚。迷わず俺を誘おうと思った時点で、骸は自覚すべきだと思う。 なぁ、骸。 お前が俺のことを好きなんてこと、お前以外はみんな気づいているんだよ。 クロームから電話を貰ってから二時間たって、骸は俺の家の前に現れた。もちろん黒曜から並盛りまでなんて一時間も掛からない。きっと無駄に悩みながら戸惑いながら来たんだろう。 ようやく来たと窓から道路を眺めれば、俺の家の周りをぐるぐると動物園のトラのように歩き回る姿がよく見えた。 「あーあー、なにやってんだか」 気配には鋭いはずなのにこうやって見ている俺に気づきもしない。どんだけ思い詰めてんだ。 やっと決心してインターホンに指を伸ばしたと思ったら、指はボタンを示したままで動かない。 動かさない。 動かさない。 引込めた。 「押さないのかよっ!?」 「うっせーゾ、駄目ツナ。さっさとあの不審人物迎えに行け」 不審人物云々には同意するけど、背後から聞こえる家庭教師様の声は聞こえない振り。後が怖い気がするけれど。だってあいつ見てて面白いんだもん。 そうしてこうして、ようやくインターホンを押したのがそれから約30分後。しかもピンポーンと鳴ってから、扉が開くまでの間に数回逃げようとしたのを俺は目撃してる。 お前それ逃げたらピンポンダッシュだからな。子供のいたずらだからな。 まぁ逃げる前に母さんが骸を見つけたけど。さすが母さん、ぐっじょぶです。俺は母さんに呼ばれるままに何事もなかったかのように玄関に向かった。 そして今にいたる。 「………………」 黙り込んだまま、気まずげにもじもじする骸はとてもきもい。そして可愛い。 なかなかの末期だと自分でも思う。 「えっと、なんの用?」 えへへ、と照れたような笑みを作って俺は骸にそう促す。ほらほらここまでお膳立てしているんだ。あとは俺を誘うだけだろう。 「はっ相変わらず暇そうですねぇ。何かすることないんですか。ああ、すいません。君なんかに予定なんてあるはずありませんでしたね。悪いことを聞いてしまいました。くふふあんまり可哀想なんで、僕が恵んであげましょうか。クロームから遊園地のチケットを貰ったんですが、千種たちは予定があるようでしてね。まぁ僕も行きたい訳じゃないんですけど、使わなかったらクロームが悲しみますしね!?まぁ百歩譲って一緒に行ってやってもいいですよっ」 例えばこんな感じでもいい。 そしたら俺だって「ありがと」なんて笑って了承するのに。 いっそ何も言わずにチケットを差し出すだけでもい。それだけだっていいのに。 たったそれだけ。 たったそれだけのことなのに、どうしてそれができないんだか。別に「好き」って言えなんて要求しているわけじゃなのに。 もう負けてしまおうか。 くだらない意地なんてかなぐり捨てて。俺から言ってしまおうか。どうせ答えなんて分かっているんだから。 ああ、うん。でもその前に。 「骸」 顔を赤くしてうつむく骸の胸ぐらをつかんで引き寄せる。バランスを崩して骸が前のめりになった。そうやってようやく俺と同じ視線。そんな身長差がムカつくけれど、いつか抜かすから今は許すことにする。骸が突然の俺の行動に目を見開く。俺はそんな骸の顔にぐっと自分のそれを近づけて、 そして触れるだけのキスをした。 「っ!?」 あはは、顔がマジで真っ赤っか。 なんだかんだ言ったって骸の意気地がないのは仕方がない。だって骸は俺の気持ちを知らないんだから。 「で、骸。俺に何か言うことあるよね?」 んでもって、俺の意気地があるのも仕方がない。 ねぇ、骸。お前が俺のことを好きなんてこと、俺はとっくに知っているんだよ。 |