ぼくのもの は ぼくのもの


じゃあ、きみは?




「雲雀くん雲雀くん雲雀くん!」
「どうしたの。沢田に好きだとでも言われた?」

 いつになくハイなテンションで骸が応接室に入ってきた。骸は興奮を押さえきれないようで、僕の手を掴んでぶんぶん動かす。その様子がまるで子供のようで、僕はくすりと少し笑った。
 だから、冗談のつもりだった。
 頷かれるなんて思ってもいなかったんだ。





 最初に六道骸に恋愛相談をされたとき、僕は絶望し歓喜した。あるいは歓喜し絶望した。彼の恋する相手が沢田綱吉でなければ、僕はその片方の感情で済んだだろう。
 僕にとって、すべてのものは二つに分けられた。僕のものかそうじゃないか。並盛は僕のもので、並盛の住人である沢田も僕のもので、黒耀に住む骸は僕のものじゃなかった。

 僕は骸を所有したかった。
 僕は骸を僕のものだと思いたかった。

 黒耀を僕のものにすることも考えたが、骸が黒耀のものなのではなく、黒耀が骸のものである以上、意味がないようにも思えた。

 僕は、どんな形でもいいから、骸を僕のものにしたかった。

 だから骸の望む相手が沢田綱吉であることに歓喜したのだ。沢田綱吉は並中生で後輩で、なにより比較的従順だ。まわりの奴らとは違って、自分が僕のものであることを理解しているようだった。
 だから僕は骸がイタリアの奴らなんかじゃなく、沢田綱吉を選んだことを喜ぶべきだった。
 骸が沢田綱吉のものになりたいと思っていることを感謝するべきだった。

 六道骸が沢田綱吉のものになるということは、つまり僕のものになるということだ。

 だから僕は歓喜した。絶望した理由は分からなかった。





「あのね、それで、綱吉君が……」

 はしゃいだようすで話す骸のノロケ話を、僕は紅茶を入れながら聞いていた。

 どうして、と心が叫ぶ。

 僕はそのことに驚いていた。これでやっと骸は僕のものになる。沢田を呼び出したり授業を自習にさせたりして、骸が彼と会えるように協力したのは全てこの為だっただろう?
 ようやく念願叶ったというのに、それでも心は叫んでいた。

 どうして どうして どうして……っ!

 勝手に開いた口が何かを告げようとした。

「・・・よかったね、骸」

口を塞ぐために紅茶を一口含んで、振り絞るように祝福の言葉を発する。心とは裏腹に僕の声は落ち着いていた。そのことに安堵する。

「はい!雲雀くんのおかげですよ。ありがとうございます」

 そう言って今まで見たことないくらい、幸せそうに骸は笑った。これから先、幸福とは何かと聞かれたならば、僕はこの笑みを思い浮かべるだろう。そのくらい幸せそうに骸は笑った。

 僕はそれを見て、再度自分の絶望を自覚する。




 蒸らされすぎた紅茶の味は苦かった。



*  純情ジャイアニズム  *



novel

2009/4/16