「だいじょうぶですか」

 骸が俺を見てにっこりと微笑んだ。その笑顔がなんだか嬉しそうだったから、俺は抵抗しないことを決めた。
 その手には骸愛用の三叉槍がある。その穂先は血に染まっていて、骸が歩くたびに赤が地面にぽつぽつと落ちた。骸の背後には先程俺を襲った奴らが落ちていて、俺は彼らが病気を持っていないといいなぁと思った。病気持ちのボスでは骸も使い勝手が悪いだろう。

「だいじょうぶだよ」

 なんだかもうどうでもよかった。骸がとても可愛らしく可哀想に感じたから、骸の欲しいものを与えたくなったのだ。
 腕を伸ばせば届く距離に骸が立っている。俺は微笑んで目を閉じた。武器も無い。警戒も無い。今の俺はどうしようもなく無防備だろう。

 骸の動く気配に俺は穂先が迫るのを予想した。

ちゅ、

 だが予想に反して、俺に触れたのは柔らかな感触だった。唇だった。
 目を開けると骸が照れくさそうに笑っている。その手にもう三叉槍はなかった。その事実に俺は声をあげて笑った。ムードも何もなくいきなり笑い出した俺を見て、骸がきょとんと目を見開いている。

 ああ、やっぱりこいつは馬鹿だったんだなぁ!

 なんだか泣きたい気分だった。初めてのキスは血のにおいがした。


与えたいものが望まれるとは限らない




novel

2009/4/15