綱吉は酒がまぁまぁ好きだ。 チューハイ、カクテル、甘口ワイン。ビールの苦味はまだ分からないが、日本酒は甘口ならいける。強くはないが、酔えないほど弱くもない。楽しく飲んで楽しく酔える、中々良い付き合いを出来ていると思う。 外でわいわい飲むのも楽しいが、家でゆっくり飲むのも良い。帰りを心配せずに済むのが楽で良い。さきいか、揚げ物、ポテトチップス、良く冷やされたトマト、ちゃぶ台の上に載ったそれらに舌鼓を打ちつつ、新発売の缶チューハイを飲む。あー幸せ。 「お、これ結構おいしー」 「それは良かったですねー」 テレビから目線を離さず、骸がおざなりに言う。まだ怒っているのだろうか。新発売の期間限定ゴールデンパイン味。購入時に色々あったりなかったり。おいしいのになぁ、そう思いながらもう一口。テレビの中では若手芸人が漫才を繰り広げている。それを聞くともなしに聞きながら、揚げ物を口に放り込む。さくり、独特の歯ごたえが美味しい。 「なぁ、骸ー今度トンカツ作ってぇ」 さくさくと揚げ物を消化し、冷やしトマトに手を出す。 「トンカツですか?いいですけど、キャベツ削るのは自分でやってくださいね」 肘を付きながら、骸もチューハイに口をつける。レモンチューハイだ。あ、そっちもいいなぁ。 「やるやるー」 手を伸ばして飲みかけのそれを骸から受け取って、自分も飲む。んーうまー。 「あーなんかちょっと熱いかもー」 顔が火照ってきた気がしてぱたぱたと手であおぐ。 「ちょっとどころか十分顔赤いですよー」 クフフと笑いながら骸がそう指摘する。だけど俺は知っているのだ。全然顔に出てないが骸も酔っていることを。耳が微かに赤いのがその証拠だ。 「にゃはははは」 「クフフフフフ」 普段ならばそこまで面白くないだろう芸人のギャグに笑ってしまうのは酒のせいだ。どうやら随分まわってきてる。それもそのはず、互いに既にチューハイ・日本酒とチャンポンに飲み合って、一人なら十分、二人ならちょっと狭いくらいの部屋には空き缶が数個散らばっている。 「へにゃー」 ちょっとぐるぐるしてきて、ちゃぶ台の上に突っ伏す。気分はふわふわしていて妙に楽しい。 「ちょっと綱吉君、寝るならちゃんと布団で寝てくださいよ。いま、ひきますから」 しっかりしているように見えるが、実は骸も微妙にろれつが回っていない。それでも散らばった缶なんかを片付け始める背中にちょっと思ったことを言ってみた。 「むくろぉー、けっこんしよっかー」 「そうですねー・・・・ってえええええ!?」 適当に相槌を打とうとして、言葉の内容に気付いたのか思いっきり振り返る。おいおい、そんな動きしたら首痛めるぞー。 「けけけけけけけっけここけ・・・!?」 「こけこっこー?」 目を丸くして言葉を忘れたかのように繰り返す骸にそう首を傾げる。ニワトリ、こけこけ。鶏肉も美味しい。焼き鳥食べたい。 「けけっこんって結婚ですが!?結婚っ」 あわあわと良く分からない動きをする骸に「ん、」と頷いてやると骸はさらに腕をあわあわさせた。『骸は不思議な踊りを踊った!しかし綱吉には効果がなかった!』なーんちゃって。 「ぷ、ぷろぽぉずってことですか!?そうなんですよね!」 そこで満面の笑みになった骸だったが、次の瞬間何かに気付いたかのように膝を突いた。 「ここれがプロポーズ・・・!こんな色気もへったくれもなくっ」 おお、これがorzか。初めて見たー。人間マジでこんなポーズするんだなぁ。 「夜景の見えるホテルは!?夕日の落ちる海は!?薔薇の花束は!?」 明らかに夢見すぎなフレーズを右から左に聞き流していたら、いつの間にか詰め寄っていた骸に肩をがしりと掴まれた。 「指輪はっ指輪はあるんですよね!?」 「オニオンリングでいい〜?」 「良い訳あるかぁ!!」 皿から残ったオニオンリングを摘まんでそういうと、骸の目じりから涙が滲んだ。イカリングのほうが良かったのだろうか? 「なんなんですか!?部屋は狭いし、君は酔ってるし、指輪はオニオンリングって!!僕は馬鹿にされてるんですかっ!?」 骸の目から涙がぼろぼろと零れる。ついでに俺の肩もがくがく揺すられる。 「む、く・・・」 がくがく揺れる。視界がぐるぐる回る。俺もぐるぐる回る。マジでヤバイ。 「し、幸せにしないとゆるさないんですからぁ・・・っ」 骸は泣いた。俺は吐いた。 よっぱらいが二匹
ということが昨日あったらしい。 うーん、記憶の彼方にあるようなないような。なんというかマジで?って感じだ。骸、お前嘘ついてない? 「なんなんですか・・・!?一晩寝たら覚えてないとかっ!僕のことは遊びだったんですね!」 こらこら、人聞き悪いことを言うんじゃない。ていうか頭が痛いから大声出さないで。ズキズキと痛む頭を押さえながら、やけに機嫌よく作ってくれた味噌汁を啜る。もっともその機嫌も今はもう見る影もないのだが。 「うぅ、ひどいですっ最低ですっ」 骸はまだぐずぐず言っている。あぁもう、しょうがないなぁ。 「むくろー」 「なんですか!?」 呼んでみれば、機嫌の悪さを隠そうともしない棘のある声を返される。面倒くさい奴。仕方がないから、味噌汁を飲み干して一言。 「明日も味噌汁作って」 思わず溜め息が出てしまう。 まったく給料三ヶ月分がどんだけ財布に痛いと思っているんだ。 |