ぼくのかみさま




この話はやなたんと萌えあがった盛り上がった
『かみさまなジョット、人間な骸、悪い魔法使いな白蘭』という設定を
砂絵なりにアレンジ(白蘭を悪い魔法使いから悪い神様にしたりとか)した和風ファンタジーパラレルです。

一応、頭の中では流れは決まっていますが、書きたいところだけ書いていきます。いきなり最終話とかもありえます。




設定
贄の躯/はじまり
平穏を愛す/彼らの日常
雪の中に生まれたもの/はじまりジョットver















設定

骸:目の色が左右違う以外、特殊能力も別にない普通の人間。目の色から村では忌み子として村八分な生活。結局は生贄にされた。父親不明。母親は幼い頃に死亡。生存本能の薄い淡白な性格だったがジョットに拾われてからは世話焼き属性。かみさま(ジョット)が好きで白蘭が嫌い。ジョットに拾われた頃は10歳だったが栄養状態が悪くガリガリでチビだった。その後は栄養も足りてすくすく伸びる(14歳)。

ジョット:骸からは「かみさま」、白蘭からは「沢田の」と呼ばれる山の神。正式名称は沢田乃神家康(さわだのかみいえやす)。沢田は住んでいる所の地名、沢田山。基本眠たそうな天然ボケのお方。外見年齢は原作登場どおり。実年齢は不明。神様としての力は結構強いらしいが睡眠を愛す平和主義。勘で生きる人なので骸を拾ったのもなんとなく。服装は黒が基調のびろびろとした着物+薄い青の羽衣。

白蘭:沢田山の北方の山に住んでいる神様。骸がお気に入りでちょくちょく遊びに来る。外見年齢は原作どおり。実年齢は不明だがジョットよりは下。楽しいことが好きで暇が嫌いな性格。享楽的。骸からは「鴉」と呼ばれ嫌われている。白蘭という名はあだ名のようなもので正式名称ではない。好きなものほど壊したくなるドS。見た目は真っ白。白い服に白い髪に白い羽を持つ。白い鴉。















贄の躯(にえのむくろ)

 骸はずっと一人だった。
 母の記憶は遠く、父親など誰とも知れない。
 村の片隅に捨て置かれていた色違いの両目を持った忌み子。
 なれば、生贄に選ばれるのも当然だった。

 四肢を縛り上げられ山の中腹の庵の前に転がされた。下に敷かれた茣蓙はせめてもの慈悲だろうか。
 お前は神の供物となるのだ、村の男達は骸を縛り上げた後そう言った。骸は抵抗しなかった。生きることに執着は無い。今までだって死なないから生きていたまでだ。大人しく従う骸に男達は次々に言う。「ああ、いい子だ」「神様のもとに行くんだ。これは光栄なことなんだよ」「今まで育ててやったんだ。お前だって村に恩返しがしたいだろう?」貼り付けた笑みを浮かべた男達から落とされる言葉に骸は眉を顰めた。育ててもらったのではなく放置されていただけであり、骸はいつだって一人だった。村に対して感謝の意などない。彼らに対して骸は好意も憎悪も持ってはいなかった。正しくどうでもよかった。こうして縛られ転がされた今だって、何も思うところは無い。
 ザザザザザザァァ・・・
 山から下りる風が木々を揺らした。冬を迎えようとしている風は薄手の着物一枚の骸の身体にひどく凍みる。細い骨と皮ばかりの身体を守るように丸くなる。腕を抱えたかったが、縄が邪魔で出来ない。荒縄が冷えた肌に擦れるばかりだ。
「さむい・・・」
 吐息のようにそう呟く。このまま死ぬのだろうと思った。それはそれで構わなかった。神に会う前に死んだら村の者達は怒るだろうか。途切れる意識の中ぼんやりと思う。だがそもそもそんなことはどうでもよいのだ。ただ、
「・・・・・・かみさ、ま」
 呟きは無意識だった。神にすがる気持ちなど骸にはない。それでもこんなときに呼ぶ名を骸は持たなかった。母を友を恋人を。闇に飲み込まれるようにして意識が薄れていく、思いのほかそれは穏やかで骸は瞼を下ろし笑った。

「んん?子供・・・?」
 だからその直後、その場に舞い降りたものに彼は気付かなかった。















平穏を愛す

「・・・・・・みさま!かみさま!かみさま!かぁーみぃーさぁーまぁああああ!」

 馴染みの樹の上でまどろんでいたところを子供の声で起こされた。俺を呼ぶその声は呼び声というよりもはや叫び声だ。余りに切羽詰った様子に思わず起きたがよくよく考えてみればこの山に居る以上、あの子を害せるものなどそうそうない。意識を巡らせてみればあの子の傍に知った気配を見つけて、嗚呼またかと呆れてしまう。そう思いながらも口元が笑みを作るのは安堵からだろう。問題ないと判断して、眠るわけではないが再びぼおっとする。どうせあの子は此処に来るのだからしばらくのんびりしても大丈夫だ。
「かみさまかみさまかみさま、・・・――っ早く起きろこの馬鹿神!」
 住処である大樹を蹴られて再び目を開けば、樹の下に息も絶え絶えな子供の姿が見えた。それに微笑んでふわりと降り立ち、とんっと地面につま先をつける。
「おはよう、骸」
「おはようございます・・・って遅いですよ!いま何刻だと思ってるんですか!」
 きっと睨みつけてくる骸の頭をぽんぽんと撫でる。位置的に少し撫でにくい。大きくなったなぁと思う。前はもっと小さかった。
「大体かみさまはだらしなさ過ぎです!昨日だって・・・・・・」
 とうとうと説教をはじめる子供を見下ろし首を傾げる。自分ではこの生活をだらしないなんて思ってはいないし、起きていたところで特にするべきことがあるわけではない。そもそもこの子は何か用があったのではないのだろうか。そこまで考えたところで視界に白い羽が見えてそちらに意識を向ける。もっとも気配だけならば随分前から気付いてはいたのだが。
「むーくーろーくんっ!つっかまえたぁー」
「なっ!?」
 がばりと背後から伸びた白い腕に子供の身体が抱えられる。気配を潜めていたから、俺ならともかく何だかんだで普通の人間の骸には気付きようがなかっただろう。
「追いかけっこなのに骸くんすぐにかみさまかみさまって行っちゃうんだもん。僕少し妬いちゃった」
「ちょっ放しなさい!」
 骸はばたばたと腕を振り回し暴れるが体格の差もあってまるで効果が無い。むしろ男はさらにぎゅうっと抱きしめるばかりだ。
「あははっ骸くんはかっわいいなぁー。ねぇねぇ沢田のこれ頂戴ー!」
「鴉!放せと言っているでしょう!」
「ぶー鴉じゃなくって白蘭って呼んでって言ってるでしょー」
 真白な男はそう笑って子供をいなす。何を言っても無駄だと思ったのか、骸は白蘭を無視してこちらを見つめる。。
「かみさまっ黙ってみてないでこの人に何か言ってやってください!」
 骸の悲鳴に首を傾げて考える。何かとは何を言えばいいのだろう。
「・・・・・・いらっしゃい?」
「お邪魔してまぁす!」
 とりあえず挨拶すると、骸を片手に抱えたまま白蘭も手を挙げて返す。うん、これでいい。
「こんの、馬鹿神共――!」
 ちゃんと挨拶したのに怒られた。何故だろう。とりあえず手を伸ばして骸を白蘭から受け取る。ようやく白蘭から離れられて骸がそっと息を吐いた。
「白蘭、今日は何用か?」
「んーん、暇だったから遊びに来ただけだよ」
 用向きを聞けば予想していたことだが、そう返ってくる。またか。
「白蘭、来るなとは言わないが、あまり場を離れるな。気が乱れる」
 白蘭は北の山に住まう神だ。雪に埋もれ生物の少ない彼の地が嫌なのかたびたびこの山に来る。骸を拾ってからは尚更に。
「えーだったら骸くん頂戴よ。沢田のばっかりずるーい!」
「俺に言うな。本人に訊け」
 そう言うと比喩ではなく白い目が目線を落とし子供を見た。
「い・や・です!」
 嫌悪も露にそう言ってしがみ付いてくる骸に思わず苦笑が洩れる。
「ちぇーっ分かったよ今日は帰る。またねー!」
 白蘭はそう言うと自らの白い翼を羽ばたかせた。骸はというと、見たくもないとでもいうように俺の服にしがみ付いてそっぽ向いている。
 羽音だけを残して雪山の神は去っていった。腕の中で子供の体温があたたかい。白い鴉が消えた空の澄んだ青を見て、思わず欠伸をひとつ。

 嗚呼、今日も平和だ。










雪の中で生まれたもの

 杜(もり)の入り口付近にいくつかの気配を感じて、私は目を開いた。
 ――人間だ。
 珍しいなと思いながら、再び目を瞑る。特に興味があるわけでもない。
 私の居るこの杜にあまり村の人間は入ってこない。神の住まう杜として自ら境界の鳥居を立てて、踏み要らないようにしているらしい。私は別に人間が杜に入ろうと、入るまいとどうでもいいのだが、惰眠を妨げられるのは好ましくないので、静かなのは嬉しかった。
 その人間がこんな時間に境界の中にいる。珍しいことだ。冬の夜に杜に入ることが危険なことくらい村の人間ならば分かっているはずだろうに。
 それともそんなことにかまっていられないほど、今年の冬は厳しいと言うことだろうか。確かに今年はいつもより秋が短く、雪が降るのも早い。夏も晴天が少なく、不作だったようだ。飢えるものが出ても仕方がない。
 この杜は私の力によって、周りよりは気温が高く、未だ植物も多い。飢えに耐えかねた村人が杜に食べ物を探しにきたのかもしれない。
そうだとしても別に構わない。勝手に入ればいい。境界を作ったのは人間であって、私ではないのだから。この杜は私の住処だが、私のものというわけでもきっとないのだ。
 そう、私がこの杜の神であっても。



「ん?」
 鳥居のあたりに集まっていた人間は、その多数が道を引き返していった。だが、そこには未だ小さな気配が一つ残されている。一体、何をしているのだろう。
「行ってみるか」
 人にしては余りに希薄な気配に興味を引かれた。人間に関わるつもりはないが、迷い子(まよいご)ならば道を示すぐらいしてやってもいい。
 寝床である桜の大樹から身を投げた。ぱたぱたと衣があおられる。冬の冷たい風が甲高い音を立てて耳を通り過ぎた。
 とん、
 軽く足で土を踏みならして着地する。身を包んでいた風がひゅるりと散った。鳥居の位置まで飛び、そこで見つけたものに私は首を傾げる。
 杜の中腹にある鳥居の前に、ぼろ布が落ちていた。否、一見ぼろ布にしか見えないようなみすぼらしい子供が一人落ちていた。
「――ぁ」
 横たわった子供の口が動いたが、それは言葉になる前に消えてしまう。
「人の子。ここで何をしている」
 子供の傍に移動して、そう問いかけてみるが返事はない。さっきの声を最後に意識は途絶えたようだ。子供の手足は枯れ木のように細く、薄汚れていた。
 まるで薪をまとめるように子供の四肢は縄で縛られている。荒縄の触れている部分の皮膚がこすれて赤くなっているのが見て取れた。

 夏の不作と厳冬。子供一人残して去った村の人間。縄で縛られ置いていかれた子供。
 それらを総合したとき、生け贄という言葉が頭に浮かんだ。そのことにきつく眉をしかめる。
 ――不愉快だ。
 私はそのようなものを望んだ覚えはない。第一気候を決めるのは私ではない。そんなものただの自然現象だ。たしかに神である以上やろうとすれば、このあたりの気候を整えるくらいはできる。だけどこんなもので人間に便宜をはかってやるつもりなどさらさらない。
「ふん」
 とりあえず、目障りな縄をかまいたちで切断する。ぷっと小さな音を立てて、縄がちぎれ落ちた。子供はただひたすらに死んだように眠っている。
 さて、どうするか。
 こんな子供に興味はないが、このまま凍死させるのもいささか可哀想な気がする。やはり村に返すのが一番だろうか。
「おい、人の子」
 真上から声を投げかけるが、子供に反応はない。死んだように眠るばかりだ。生気すら薄く目を瞑り倒れる姿は私でなくては、死体と判断するだろう。蝋燭の火よりか細い気配だけが、私に子供の生を伝えていた。
「起きよ」
 こけた頬に手を当てて、再び呼びかける。触れた温度は生き物にしてはあまりに冷たい。
 寒いから子供は起きないのだろうか。首を傾げ、家康は周囲に力を散らした。炎と熱は私のもっとも得意とするものだ。土も凍り付くような空気が一気に春先のそれへと変化する。
「ぅ」
 温度の変化を感じ取ったのだろうか、子供が微かに身じろぎした。縛られたときのままだった手足をかばうように丸くなる。その姿は胎児のそれに似ていた。
「おい、人の子。起きよ」
 肩をゆさぶり、再び声をかける。
「うぅん」
 まつげをか細く震わせて、子供が薄く目を開いた。その瞳は青く、そして赤かった。
「ほう」
 色違いとは珍しい。なるほど、この子供が生贄に選ばれた理由はこれか。この目に神性でも見たか、それとも呪いと思った末のやっかい払いか。
 どちらにせよ見る限り、この瞳には何の力もない。
 何の力もないただの眼球だった。
「・・・か、みさま?」
 子供が消え入りそうな声でそう口にした。ほとんど音はなく、唇が動いただけにも思える。
「お前等がそう呼ぶならばそうだ」
 そう答えると、子供は横たわったまま私を見上げた。じっと見つめるその瞳には何の感情の色もない。
 生贄にされたことへの恐怖も、村人への憎悪も、神への畏怖も。その瞳には何もなく、ただ私を見つめていた。
 その視線になんだか腹が立つ。それは生き物の目ではないだろう。
「人の子、私は生贄などいらん。縄は切った。村に帰るがいい」
 苛立ちも露わにそう告げると、子供は静かに瞬きをした。
「……そうですか」
 再び開かれたその瞳には、やはり何の感情もない。まるで他人事のように子供はそう言うと、ふらりと立ち上がって歩き始めた。しかしやはり弱っているのだろう。数歩も歩かないうちにべしゃりと崩れる。
 その様子に溜め息を吐く。だから人は嫌いだ。
「止まれ。村まで送ってやる」
 倒れた子供の傍まで行くと、私は風を呼んだ。子供はただ無表情にこちらを見上げている。転んだというのに泣きもしない。
 風で自分と子供をすくい上げ、ふわりと浮く。そしてそのまま村の入り口まで移動した。
 ぴゅうぴゅうと風の音が耳を抜ける。
 ちょうど、子供を杜へ置いてきた帰りだろう男たちが歩いていた。このまま子供を返せば問題あるまい。今後、生贄などを置いて行かれることもないだろう。
そう思って、子供を降ろそうとしたとき、声が聞こえた。
「しっかしよぉ、これで山神さまは助けてくださっかなぁ」
「そのためにあいつを置いてきたんだ。そうでなくては困んよ」
「まぁ山神さまが助けてくださんねくとも、これであいつをやっかい払いできたんだ。損はねぇだろぉよ」
「ははっ違いあるめぇ」
 そう言って男たちは笑いながら村へと帰っていく。子供への罪悪感を抱えているものなど一人も居ない。
 私は腹にむかむかしたものを抱えて男たちを睨み付ける。
 ――胸くそ悪い。
 私の怒りに反応して、周囲の木々が荒々しく声を上げた。その音に男たちはおびえ逃げ帰っていく。
「ふん」
 くだらない。そう心中でつぶやく。
 そしてふと、気が付いて子供の様子を伺った。望むところではなかったが、あんな言葉を聞かせてしまったのだ。さぞや傷ついているだろう。
 多少の罪悪感と共に期待を持って子供を見る。死んだように表情の変わらない子供だが、これにはさすがに何か反応があるはずだ。
 しかし予想とは裏腹に子供はただそこにいた。涙一つ落とすことなく、感情のない瞳で男たちの去った方を見つめている。
「……っ」
 その表情に私の胸の中で何かが燃えた。油に火打ち石を打ったように感情が一息に燃え広がる。
「おい、人の子」
 ぐっと子供の襟首を掴んで視線を合わすように持ち上げる。着物は襤褸(ぼろ)だし、手にかかる重さは想像以上に軽い。
 そのことにチッと舌打ちをする。
「おまえはあんな風に言われて、こんな扱いを受けてなにも思わないのか」
 そう尋ねると子供は不思議そうに首を傾げた。
「べつに」
 その言葉に嘘はなくて、その瞳に嘘はなくて、だからこそ私はぎりりと歯噛みする。
「あんな風に言われて、こんな扱いを受けて!恨めばいいだろう!憎めばいいだろう!何故そうしない!」
 私の怒りに反応してびゅううっと風が舞う。子供はそれに数回ぱちぱちと瞬きをしてから口を開いた。
「べつに、どうでもいいです」
 その瞳には何もない。怒りも憎しみも悲しさも希望も絶望も嘘も誇りも、諦観すらその瞳にはなかった。
 この子供にとってこんなことは、諦めるようなことですらないのだ。ただ、そういうものであるだけ。子供にとって、世界はそういうものでしかなかっただけだ。
 その瞳が気に障った。

 子どもは嫌いだ。すぐ泣くから嫌いだ。
 人は嫌いだ。すぐ頼るから嫌いだ。

 けれど、子供とは、人とはそういうものだろう?そういうものであるべきだろう?
「おい、人の子」
 ぼんやりと立ち尽くしている子供に声をかけると、ゆっくりとした動作でこちらを見上げた。
「私は人が嫌いだ。子供も嫌いだ」
 子供は不思議そうに首を傾げる。悲しそうな顔ひとつしやしない。本当にかわいげのない奴だ。
 そう思いながらも私は子供に手を伸ばした。
「それでもいいなら拾ってやる」
「……?」
 差し出した手を子供はじっと見つめる。不思議そうに不可解そうに、それでもどうでもよさそうに。
「いいから来い」
 なかなか動こうとしない子供に焦れて子供の細い腕を掴む。力を込めれば簡単に折れてしまいそうな冷たい腕だ。
 腕を引けば何の抵抗もなく、懐に収まる。

 ぴゅううんっ
 杜に帰るために風をまとった。鋭い突風に村人たちが悲鳴を上げたのを遠く聞く。

 眼を閉じて、開けばすでにそこは村ではない。鳥居の奥、杜の中心、住処である大樹の前だ。
 外気に冷えた肌をふわりと柔らかな空気が包み込む。ここは神域だ。私の力に守られて、外よりも気温は穏やかになっている。
 移動に眼を瞬かせていた子供が、ほうっと息を吐いた。冷気に強ばっていた身体がほどけていく。
 暖かくなって気が抜けたのか、子供の瞼がとろんと落ちそうだ。私はただそれをぼんやりと眺めた。
 ――さてさて、勢いで拾ってみたのはいいものの、どうしようか。
 子供の育て方など私は知らない。とりあえず差し迫って必要なのは寝床だが、どうしたものか。普段私はこの樹の上で過ごしているが、子供にそれを強要するのも酷だろう。
 ふらつき崩れ落ちそうになる子供をとりあえず、抱き上げる。腕の中の身体はやはり軽い。
「ああ、大事なことを忘れていた。人の子、おまえ名はなんという?」
 今にも眠ってしまいそうな子供にそう問いかけると、子供は重そうに瞼を押し上げて、小さな声で答えた。
「むくろ」
 その名前があまりにも子供にふさわしくて、私は眉を寄せた。何も感じない。何も思わない。子供の眼は本当に、死んだ人間のそれに似ている。
 それでも眼を閉じてしまえば、子供はただのやせ細った子供でしかなかった。くーくーと微かな寝息をたてはじめた子供、骸を抱きなおして大樹の根本に座り込む。
「ふん」
 ゆっくりと熱を移すように暖かくなっていく骸の身体を見つめた後、そっと私も眼を閉じた。

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