1.退屈な日常を用意しましょう。
2.ラスボスな人たちをそこに放り込みます。
3.お人好しを与えましょう。(ツッコミ・苦労人属性だと効果的です)
「あーひまぁ」 ぐてんと机にへばりく。やることないし、やりたいことないし、ちょー退屈。 「ねぇねぇ骸君、ひまぁー」 「ちょっと白蘭、椅子揺らさないでくださいよ」 がたがたと椅子を揺らしてそう訴えると、面倒くさそうに前の席の少年が振り返った。秀麗なその顔は今は不機嫌に歪められている。それでもその美貌が損なわれることはない。まぁ、南国果実な髪型をしても損なわれない美貌なのだから、ちょっとやそっとじゃ損なわれたりはしないのだろう。 「だいたい暇なんて、僕にどうしろって言うんですか」 怒りながらもそう尋ねてくれるあたり、このクラスメイトはけっこう優しいと思う。 「んーじゃあ、とりあえず今から遊びに行く?」 「無理です」 構ってくれたことが嬉しくて、へらんと笑いながら誘ったら即答で断られた。前言撤回、ちっとも優しくない。 「えぇーあそぼーよぉ」 「お生憎様。僕は今日はこれから綱吉君とデートなんです」 「あ、まだ続いてたんだ」 「当たり前です!」 こうして僕との雑談に付き合ってくれるあたり、なんだか機嫌が良い気はしていたのだが、そういうことだったらしい。沢田綱吉という少年は、この学校の後輩だ。どう出会ったのかは知らないが、骸はやけにあの少年を気に入っていた。低い背丈とふわふわとした茶色の髪が印象に残っている。その姿を思い浮かべ、僕は前から気になっていたことを聞いてみることにした。 「ねぇ骸君」 「はい、なんですか」 「どうして綱吉君なの?骸君、あーゆー子嫌いでしょ?」 弱くて甘くてお人好し。僕らとは正反対の彼を骸が好むとは思えなかった。骸は強い人間か、彼に従う者しか側に置かない。従うものとてそれを許すのは彼にとって有意義な者だけだ。ちなみに僕は前者で、彼の幼なじみという少年たちは後者だろう。そして沢田綱吉という少年はそのどちらにも当てはまらない。 僕の問いに骸は少し考えるようにして言葉を紡ぐ。どうやら真面目に答えてくれるらしい。 「ねぇ白蘭。僕はね、自分に優しさやモラルが足りないと自覚しています」 「うん、そうだねー」 僕も骸も一見人当たりはいいが、その本質は基本的に非情なものだ。 「他人も自分ですらどうでもいいと思っている」 「うん」 好きなものも嫌いなものもあるけれど、本当に興味をもてるものも執着するものもない。きっと隣で人が死んでも「ふぅん」で済ましてしまうだろう。もしかしたら自分が死ぬときすらそうかもしれない。 「だからね、僕のような人間は何か止めるものがなければ、きっとどうしようもなくなってしまう。どうしようもなく堕ちていける」 「たとえば?」 こてんと首を傾げる。骸がふざけるように笑った。 「たとえば世界大戦とかしたくなっちゃうかもしれません」 「あ、いいな。僕も新世界の神とかなりたーい」 「デスノかよ。貴方あんな正義感ないじゃないですか」 骸がクフフと笑ったので、僕もくすくすと笑う。相変わらず変な笑い方。 「で、骸君を止めてくれる人っていうのが綱吉くんなの?」 「ええ。彼は優しくて愚かで正しい。きっと僕を止めてくれる」 彼の言うことが理解できずに、僕は口をすぼめる。そんな僕を見て、骸は優しく微笑んだ。それは同情にも似ている。持つ者が持たざる者へ向ける笑みだ。 「ねぇ、白蘭。僕らのような人間にはね、そういう人が、泣かせたくない人間が必要ですよ」 諭すように微笑んでそう告げると、「それでは」とばかりに彼は教室を出て行ってしまった。先ほど言っていたように、これからデートなのだろう。 「泣かせたくない人間ねぇ・・・」 優越感すら感じられた骸の言葉に思考を巡らす。僕にはいるだろうか。泣かせたくない人間、泣いてほしくない人間。 「泣かせてみたい人間はいっぱい居るんだけどなぁ」 骸くんとかね。そっと口の中だけで呟いてみる。ああ、きっと彼の泣き顔はとても綺麗だろう。それを見てみたいとは思うのは、彼の言っていたのとは大分違う感情なんだろうなぁ。 「いいなぁ」 骸に選ばれた沢田綱吉が、彼を見つけることができた六道骸が。羨ましくてため息を吐いた。それがどんな気持ちかは分からないけれど、少なくとも退屈ではないだろう。 「何がいいんですかっ!良くないですよ!」 独り言に返ってきた声に驚いて振り向くと、教室の入り口に眼鏡をかけた少年が立っていた。走ってきたのだろうか、息を切らしてドアに寄りかかるようにしている。 「あれぇ?正ちゃんどうしたの?」 ひらひらと手を振って後輩に声をかけると、キッと睨まれた。 「どうしたの、じゃないですよっ白蘭さん!今何時だと思っているんですか!とっくに委員会始まってますよ!」 「あれ?今日だったっけ?」 ノリで入ってみた委員会の副委員長である正一は、口うるさいが優秀だ。そのうえ面倒くさい諸々を、自ら背負って胃を痛めている苦労性でもある。 「今日ですよっ!あーもぅ、明日には風紀のほうに書類を提出しなきゃいけないのに……」 腹部を押さえる正一は白い顔でイライラと眉を寄せている。 「正チャンはいつもそんな顔をしてるねぇ」 ぎゅっと寄った眉を指で押さえると、 「誰がこんな顔をさせていると思っているんですか!」 と怒鳴られた。 怒った顔か、焦った顔か、困った顔。そんな顔しか見たことがない。僕は泣いた顔を見たいのだろうか?先ほどの続きのように考える。 泣かせてみたいとはあまり思わない。僕は彼にどうして欲しいのだろう。怒った顔でも、焦った顔でも、困った顔でも、泣いた顔でもない。僕の知らない表情。 ……そういえば、正チャン笑わないな。 「ああ、うん。笑ってほしいのかも」 ぽとんと落ちてきた答えに僕は頷く。泣いて欲しくないかは分からないけれど、僕は彼に笑って欲しい。 「ねぇねぇねぇ!正チャン笑ってみない?」 「はぁっ!?笑わせたいっていうなら手を煩わせないでくださいよ!」 ぷんすかと怒りながら、僕の手を引いて正一は歩き出した。 「そうだ。正チャンは新世界の神ってどう思う?」 「知るかっ!僕はL派です!いいから走ってくださいよ!」 「はーい」 子供のように手を引かれて、ぱたぱたと廊下を走る。 笑顔は見れなかったけど、前を走る弱そうな背中を見て、僕はなんだか満足した。 たまに退屈なこともあるけど、この世界もまぁ悪くないかもしれない。 |
これで世界平和の出来上がり。
(完成後はお早めにお召し上がりください)