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願い星、3回

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 流れる星に願いをかけた。

 叶えるつもりなんてなかった。

 君が怒ればそれでよかった。

 君が笑えばそれでよかった。




 ただ、君と居たかった。





 *****





 銃声がどこか遠く響いた。

「むくろっ」

 切羽詰ったような綱吉の声もどこか遠い。
 視界の端に銃口、背中に受けた衝撃、どれも何故かゆっくりで遠く現実味がない。
 まるで、夢みたいな。
 まるで悪い夢みたいな、そんな現実。

 世界に音がなくなって、世界に色がなくなって。衝撃に思わず閉じた目蓋を開けば綱吉がいた。

「つ、なよしくん?」

 声が震えるのは何故だろう。どうして綱吉が倒れているのか。どうして赤いのか。どうしてこんなに赤いのか。
 呼吸が止まる。思考が止まる。
 ねぇ、どうして。

「ぐ、かはっ」

 あえぎ声に僕は意識を取り戻す。
 ぐったりとした綱吉の身体を引きずるようにして、飛び交う銃弾から身を隠した。支える身体は熱くて、ぬるりとした感触に息を飲む。

「つなよしくんっ!つなよしくんっ!」

 どうして。どうして。
 どうして貴方が僕を庇うんだ!

「む、くろ?」

 焦点の合わない目で見上げる綱吉の顔は青白い。血が足りないのだ。停止した思考の中、それでも脳のどこかが冷静に判断する。これは致命傷。そして脳の下したその判断を心が必死に否定している。
 綱吉くんは死なない。死なない。死なない。――死なないでっ!

「ねぇ、むくろ。おれは、死ぬのか」

 絶え絶えにつむぐ言葉に耳を塞いでしまいたい。それでもそんなことできるはずなくて、僕は彼を抱きしめる。

「死にません。貴方が死ぬはずない」

 口にした言葉が真実だったらとどんなにか思った。でも僕はそれが嘘になると思っている。きっとそれは彼にも伝わっただろう。超直感、ああなんてやっかいな能力だろうか

「くそっ!こんな、こんなところで死ぬわけにはいかないのに……!」

 文字通り、血を吐くように彼が言い捨てる。悔しげに苦しげに。

「あとちょっと。あとちょっとだったんだ!いま、今、沢田綱吉が。ボンゴレがいなくなったら……」
 僕の胸に縋りついた右手を硬く握り締めて、彼はそう言った。
 いまマフィア界は安定し始めている。全てはボンゴレ十世の力だ。彼の尽力と人望によってマフィア界はいまゆっくりと自然解体に進んでいる。だがそれも彼が居なくなればなくなるだろう。むしろ反動としてより波乱の道を行くことは予想に容易い。

 マフィアが憎いと思った。人体実験をされたときよりも、牢獄に囚われていたときよりも。今ひたすらに、何よりマフィアが憎いと思った。
 こんなときですら彼の心を占めるのはそのことなのだ。歪んだ独占欲が僕を蝕む。
 彼は僕を庇ったのに。僕を庇ったのに!それでも彼の心は僕のものにはならない!

「ごめん、むくろ。ごめんね」

 枯れた声でそう言って、綱吉はぼろぼろと泣いた。

 どうして、どうして貴方が謝るんだ。
 謝るべきは僕だろう。僕のせいで貴方は死ぬのに。全ては僕のせいなのに。

 クロームのように幻覚で傷を塞ぐことはできない。超直感を持つ彼には幻覚は効かない。僕には何もできない。ああ、彼が死んでしまう。
 僕のせいで彼の願いは壊れてしまう。彼の意志が途絶えてしまう。


 いや、そんなことはさせない。


「だいじょうぶ。だいじょうぶです。沢田綱吉は僕が死なせない」

 涙でべたついた頬を歪めて僕は微笑む。
 綱吉はそんな僕を見て、「ごめん」と哀しい目をして言った。やはり謝る理由は分からなかった。





 魂の消えた彼の身体にそっと最後のキスをする。返ってくるものはもちろんない。もう恥ずかしがって怒ることも、照れたように笑うこともない。
 僕はそのことに一筋涙を落としてから、彼に魔法をかけた。死んだ男の姿を被せた。
 そしてまた、自分にも同じように幻覚を被せる。その姿を思い描くことはひどく簡単だった。ずっと見てきた姿だ。声も、仕草も誰の演技より自信がある。ばれることはないだろう。だってどんな姿だって僕を見つけた人はもう居ない。

「さようなら、六道骸」

 僕はそっと腕の中の死体を撫でる。辺りが騒がしい。ようやく遅すぎる増援が来たのだろう。

「ご無事ですかっ十代目!」
 息を切らして駆けつけた右腕の姿に、俺は(僕は)肯定の返事をした。



 さぁ、沢田綱吉を続けよう。




novel


2009/7/7