眠りに就いた彼に花を




部屋に入るとまず消毒液のにおいが鼻に付いた。
眩しくなるような白い部屋の中央に彼が横になっている。
思ったより白は似合わないんだなぁとぼんやり考える。
黒が似合うようになったからだろうか。



「来たね。骸」

「つなよしさ、ん」

「お前にね、頼みがあるん、だ」

「たのみ・・・?」

「うん。骸には俺が死んだらファミリーを、抜けて欲しい」


やめてくれ。死ぬなんて言わないで欲しい。
ああ、彼が白い。嗅ぎ慣れた臭いがする。

死ぬ人間の臭いがする。


「ナツを連れて逃げて欲しい」

「あの子を?だってあの子は・・・」

「ナツを11代目にはさせない。俺は、ナツには幸せになって欲しい。普通の世界で、普通の幸せを掴んで欲しいんだ。だから、骸・・・」

「どうして僕なんです?自分でも子育てに向いてるとは思えませんけど」

本当は理由なんて興味がない。ただ嫌なだけだ。
綱吉が死んだあとの話なんてしたくない。
独りで生きるなんてそんなことは聞きたくない。


「う〜ん、超直感かな」

そう言って綱吉は少し笑った。






「・・・・・・僕の気持ちを、知っていてそんなことを言うんですか」

「知っているよ。骸が意外と此処を気に入っていることも、犬や千種や凪を大切に思っていることも」


「俺を、愛してくれていることも」


「知っていて、貴方は言っているんですね・・・」

ならば、骸に拒否権などありはしないのだ。
優しくて残酷な彼がそれでも願ったことならば。






「ごめん、骸。リボーンの言うとおりだったね」

綱吉がそっと骸の手に触れる。

「俺がお前を孤独にするんだね」

冷たい手だ。これではまるで・・・。
自分の考えを振り払うかのように骸は綱吉の手を掴むと自らの頬に当てた。
少しでも温まるようにと。

表情から綱吉が本当に申し訳なく思っていることがわかるから、自分を救えなかったことを悔やんでいることが分かったから、だから骸は笑って言った。

「そうですね。貴方が僕を寂しくさせる。貴方に逢わなければ僕にはこんな感情なんてなかった」

綱吉の顔が歪んだのを見て骸は笑った。泣き出しそうな顔で彼の神に笑った。



「だから」

「だからいいですよ。貴方がくれたものがあるから」

貴方がこんな化物を救おうとしてくれたことを知っているから。

「此処を離れても、貴方がいなくても」

救おうとしてくれた、その心に救われたから。

「孤独でも生きていけます」

だから



「僕は幸せです。ずっとずっと幸せです」