俺は今、十数年ぶりに子供の頃過ごした町に居る。 ――7歳の時、俺はここで親友を一人殺した。 黄泉の河を越えて 十年以上の時を経ても並盛の町は変わっていないようだ。俺なんかの曖昧な記憶でも地図を使ってだが歩くことができた。 ああ、ここを右に曲がると小学校がある。直進すればむかし暮らした家。 左に曲がれば――。 「あれ?もしかしてツナか?」 「え?」 突然かけられた声に驚いて振り向く。そこには背の高い黒い髪の青年が立っていた。精悍な顔立ちには人なつっこい表情を浮かべている。 「やっぱりツナだろ?ほらっ俺山本だよ。小一のとき一緒のクラスだった!」 「や、やまもと!?」 言われてみれば面影が残っている。ここまでかっこよくなるとは思わなかったけど、当時から山本はかっこ良かった。クラスの人気者で俺とはまるで正反対。だからあまり記憶力のない俺でも覚えていた。 「よく俺が分かったね」 「ん、ツナの髪型特徴的だったからもしやと思ってさ。ツナこそよく俺のこと覚えてたのなー」 「それはこっちのセリフだよ。山本が俺なんかのこと覚えているとは思わなかった」 クラスの人気者の山本がダメツナの俺を覚えているなんて当時ですら思わなかった。まさか十年以上経って覚えていてくれるなんて。 「ああ、お前転校したろ。あの事故の後。それで、な」 「……そっか」 言いづらそうにする山本の様子に、俺も思わず俯く。なんとなく気まずい空気が満ちた。 そのときだった。 ゆらり、とまるで水面の反射のように空間が歪む。 「……ムクロっ」 幼い、小学校低学年ほどの少年がそこにいた。整った顔だちの少年だった。しかしその全身はぐっちょりと水に濡れている。 彼が7歳であることを俺は知っている。ロクドームクロ。俺の親友。 ムクロは俺を睨み付けて何事か口を動かしていた。でもその声は聞こえない。届かない。 俺は一歩彼に近づくように足を踏み出した。ムクロは俺を見つめている。 「ツナっ!?」 キキィーッ!!ガッシャン! 甲高いブレーキ音を立てて、車が突っ込んできた。壁にぶつかってボンネットは少しへこんでいる。 ああ、その場所は。 「ツナっ大丈夫か!?」 その場所は、俺がさっきまで立っていた場所だ。 さぁああと血が引いていくのが分かる。 ムクロ。ムクロ。 やっぱりお前なのか。 「ごめんっ大丈夫か!?怪我は!?」 慌てたように出てくる運転手もまた蒼白な顔をしている。 「おっさん!大丈夫かじゃねーよ!危ないだろ!!」 俺のために怒ってくれる山本を嬉しく思いながら、俺は後ずさった。 俺は行かなくてはならない。 「おいっツナ!?」 山本の制止を背中に俺はかけだした。交差点を左に曲がる。この先は、この先には――。 ムクロが死んだ川がある。 →next |